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2017.09.27

リットーミュージック

なぜミュージシャンがマネジメントのことを知る必要があるの?【脇田敬+山口哲一対談】| ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務

Text by リットーミュージック編集部

ミュージシャンのイコールパートナーとしてヒットやブレイクを目指すマネジャーが日々行なっている実務は、音楽ビジネスの根幹にあるもので、いわゆる「付き人」のイメージからはほど遠い。2017年9月15日発売の書籍『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』(脇田敬著/山口哲一監修)は、経験豊富な現役マネジャーが、そのフィロソフィーやノウハウを惜しげもなく披露したもので、DIYミュージシャンはもちろん、既にマネジャーが付いているアーティスト、音楽業界志望者まで、幅広い層に貴重な情報をもたらしてくれるはずだ。著者の脇田氏、監修者の山口氏に、話を伺った。

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ミュージシャンも知識を持つことが重要

『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務』という書名は、かなり刺激的ですね。ミュージシャンは音楽を作っていればよく、ビジネス面は事務所(プロダクション)が行なうというのが、一般的なイメージですから。

脇田 インターネットやデジタル技術の普及によって、ミュージシャンが自分で発信し、直接ユーザーとコンタクトし、ビジネスを行なうことが可能になりました。マネジャーや音楽スタッフが、この新しい時代に必要な業界の仕組みや音楽ビジネスの知識を知らないといけないのはもちろんなのですが、ミュージシャンも知識を持つことが重要になっています。中にはこの本を読んで、「自分で自分の音楽を売っていこう」と思うミュージシャンが出てくるかもしれません。そんなきっかけとなればうれしいです。その一方で、「マネジャーや業界人はこんなことを考えているんだ!」という気づきとなって、自分の音楽の良さを伝えて広めてくれるスタッフとの連携を強めてほしい、という狙いもあります。

山口 率直に言って、日本のミュージシャンはビジネスマインドという部分が、世界的に見て非常に遅れています。クリエイティブが良いだけでは、これからは不十分です。この本を読んで、「マネジメント」という仕事に興味を持ってほしいですね。そして、脇田くんも言っているように、スタッフとミュージシャンがビジネスに関してコミュニケーションを取る架け橋にもなれたら良いなと思っています。基本的な考え方と、押さえておくべき情報はこの本に網羅していますが、「成功のための戦略」は、アーティストの個性によってさまざまですから。

また、音楽業界で仕事をしたい、自分がスタッフになりたいという若者にも、本書は必携だと思います。この本を片手にバリバリ音楽の仕事をしてほしいです。

確かに、音楽業界のことがかなり詳しく書かれているので、「ああ、こういう仕組みになっているんだ」というのがよく分かりました。また、「音楽業界村」とも言われ、独特の掟が存在するように見える業界での振る舞い方も見えてきました。その一方で、ネット以降の販売・宣伝の方法論も書かれていて、その2つが共存している現状が浮き彫りになっていますね。

脇田 「ネットの時代が到来して、古い業界のやり方は通用しなくなる」という考え方があります。「CDはもう売れない」とか「カスラック」とか、「ミュージシャンとユーザーの間に入るスタッフはもう不要」みたいな......。ネットでの批判や業界の閉塞感から、自分自身も、既存の音楽ビジネスに疑問を頂いた時期もありました。でも実際には、音楽シーンでのアーティストが直面する苦労やスタッフが汗を流す現場では、長年培われたノウハウや知恵は理にかなっていて力になっています。だから、古い考えにだけ固執するのはダメだし、先人の知恵やノウハウをリスペクトしないのも間違い。両方学び、日々悩み続けることが大事なんだと気付きました。

山口 僕らが掲げている「ニューミドルマン」というのがまさに、単純な中抜きだけではないよ、新しいタイプの人材が必要だという意味ですね。ネットが良いとか、これまでのやり方がダメとか、単純なことではありません。見方を変えると選択肢が増えている時代なんです。

J-POPの歴史を振り返っても、原宿の歩行者天国からバンドブームが起きたり、都会でのクラブの隆盛がジャパニーズR&Bの流行を呼んだりと、新しいムーブメントが新しい音楽シーンを作ってきました。若い人たちに新しい音楽シーンを作ってほしいです。キーはテクノロジー活用だと僕は思っています。

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▲脇田氏

もっとミュージシャンにビジネスマインドが必要

本書からは、音楽業界への愛情もかなり感じることができました。お2人にとって、音楽業界ってどんなところですか?

山口 僕が一番良いと思うところは、日本の音楽業界は音楽好きが集まっていて、音楽やアーティストへのリスペクトが前提になっているところですね。

脇田 ミュージシャンは、自分の名前で人前に人格をさらけ出して、称賛も非難もモロに浴びる存在です。それがベースにあるから、自由自立を目指す文化があると思う。でもここ数年、音楽業界って批判されることも多いですよね。確かに、インターネットやスマホの時代に合わない部分もあります。でも、やっぱり純粋に音楽が好きな人が集まっている業種だと思うんです。自主独立の気概、音楽の持つスピリットだと思うのですが、それを失わなければ、時代はまた回ってくると思っています。

では、ミュージシャンが事務所に期待するべきことは何だと思いますか?

脇田 一般社会に例えると、日本の音楽ビジネスで事務所(プロダクション)に入るというのは、学生が就活して、会社に所属するようなイメージです。ミュージシャンが事務所に就職して、サラリーマンのようになる。でも現在、この形は古くなってきています。ミュージシャンが、事務所やレーベルに対して何かしてもらおうと考えるスタンスは、成功に結び付きにくいからです。でもミュージシャンからすると、そもそも音楽ビジネスの全容が分かっていないので、事務所が何をしてくれるのか、そして自分で何をやらなければいけないのかが分からないわけです。今回の本は、マネジメントの現場をミュージシャンが知ることで、何を自分でやるべきか、何を事務所にやってもらいたいかが明確になる助けとなってほしいという意図もあります。

山口 さっきも言いましたけれど、もっとミュージシャンにビジネスマインドが必要ですね。僕らスタッフもこれまで「良い曲作って歌っていれば、それだけでよい」と、才能を守ろうとして、結果、スポイルしてきた側面もあると思います。これから成功するニュージシャンには、ビジネスマインドとスキルが必要です。事務所ともイコールパートナーな関係をイメージしてほしいですね。従来のマネジメントスタッフにはスキルと経験はあり、人脈も持っていますから、ミュージシャン側もそれをリスペクトして活用する気持が大事だと思います。

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▲山口氏

「ポスト無料化」? みたいな時代

無料と有料が混在する時代については、どう考えればよいでしょう?

脇田 かつては、音源(CD)、ライブ、映像、文章、写真などのコンテンツはすべて有料だったわけです。音が欲しければCDを買い、映像はDVD、文章や写真は雑誌といった形で、スポンサーの付いたTVやラジオ以外は、アーティストに関するコンテンツすべてをユーザーは購入していた。ところが、インターネットの登場で、この前提が変わってしまった。

「無料化」という価値転換は、とても刺激的で、一大トレンドとなったと思います。でも現在、その揺り戻しが来ていて、「ポスト無料化」? みたいな時代になっている。どこからどこまでを無料にして、どこから有料にするか......考えることが多い時代ですね。

山口 本の中でも書きましたが、アーティストマネジメントの業務の中に、「マネタイズポイントを設定する」という項目が生じたのが、近年で一番の変化だと思います。

そういう変化を受けて、360度契約という考え方も出てきたわけですよね。

脇田 「CD一強時代」には、レコード会社は、レコードやCDという「音源」という一商材を扱う会社にとどまらず、音楽ビジネスにおける銀行であり、役所のような存在でした。でも「無料化」が進み、音楽は無料で楽しむ、というスタイルが広まってしまい、かってはビジネスとして重要視されていなかった「ライブ」「グッズ」「ファンクラブ」にも価値が置かれ始めています。エイベックスは、レコード会社から総合エンタテインメント商社へと変身して成功を収めていると思います。

山口 これから音楽業界が新人アーティストを売り出す際は、360度契約にならざるを得ないと思います。「餅は餅屋」的にノウハウを持ち合い、リスクを分散するやり方です。それと認識した方が良いのは、グローバル視点で「メジャーレーベル」はユニバーサル、ワーナー、ソニーの3社で、他は「インディーズレーベル」だということですね。

まさに激動の時代という感じですが、音楽ビジネスはこれからどうなるのでしょう?

脇田 素晴らしい音楽は、どの時代にも世界中で求められているので、それをお客さんに届ける役割は必要です。ネットが登場して、「既存の業界は必要なくなるんじゃないか?」といった風潮が広まりました。しかしそんな時代を通過して今、素晴らしい音楽というのは、技術やノウハウ、知恵が集まってお客さんに届けられるものだということにみんな気付き始めている。ではネットの時代に、先人の技術、ノウハウ、知恵をどうやって生かしていくべきか。

そういった技術、ノウハウ、知恵を持った業界人は、テクノロジーがもたらす新しい時代と向き合わないといけないし、次世代を担うミュージシャンやスタッフは、過去の良いものを学ばなければいけないと思います。そこから生まれるものが、これからの時代には求められてくるはずですから。......というか、既に求められていると思います。そこに取り組んだものが勝ち、怠ったものは消える。特に日本の音楽シーン、ミュージシャン、業界人には、この時代を乗り越えて、音楽が世界を彩るような時代を築き上げてほしいですね。そのために、自分も努力したいと思っています。

山口 国際社会とグローバル市場の中で、日本が先進国であり続けるために、ポピュラーミュージックの存在が非常に重要な時代です。これから主産業になる観光においても、訪日外国人のリピーター化や滞在期間の長期化にコンサートの果たす役割は大きいでしょう。J-POPミュージアム的なものも作っていくべきですね。これは例えば、目黒鹿鳴館近くに、ビジュアル系ミュージアムを作る、みたいなことです。これまでよりも高い視座、広い視野で音楽ビジネスを捉えるべきだと思っています。


<著者プロフィール>
脇田 敬(わきた たかし)

1971年生まれ。レコード会社勤務、ライブハウス/クラブ・マネジャーを経て、プロダクション設立。多くの新人アーティストのマネジメント、制作を行い、メジャーデビュー、ブレイクへと導く。豊富なライブやマネジメント現場の経験とインターネット時代に対応した業界ビジネス知識を活かしたマネジメント、プロデュース、プロモーションを行なっている。ミュージシャンズ・ハッカソン、エンターテックイベント「TECHS」制作、 ニューミドルマン養成講座制作、ライブハウス「DESEO mini with VILLAGE VANGUARD」プロデューサー、尚美ミュージックカレッジミュージックビジネス科非常勤講師。


山口 哲一(やまぐち のりかず)
1964年生まれ。
音楽プロデューサー、エンターテック・エバンジェリスト。
新テクノロジー活用•グローバルな活動・異業種間コラボレーションの3つがテーマ。幅広い知見と人脈を活かして、企業の事業開発やスタートアップのアドバイザーとしても活躍するほか、日本音楽制作者連盟理事や『デジタルコンテンツ白書』編集委員、経済産業省「コンテンツ産業長期ビジョン検討委員会」委員などを歴任する。
プロ作曲家育成「山口ゼミ」、「ニューミドルマンラボ」を主宰しての人材育成や、エンタメ系スタートアップを支援する「START ME UP AWARDS」、クリエイター交流による地域振興「クリエイターズキャンプ真鶴」実行委員業など、未来への「場つくり」を続けている。


ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務

1,944(本体1,800円+税)

品種書籍
仕様A5判 / 176ページ
発売日2017.09.15

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