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2018.05.07

エンジニアGOH HOTODA氏がサウンド・プロデュースしたNOKKOの新アルバム『TRUE WOMAN』|サウンド&レコーディング・マガジン2018年6月号より

Text by Tsuji. Taichi Photo by Hiroki Obara(Studio)

新しいツールを駆使すれば"今のサウンド"が手に入る
今回もそちらに振り切って作り上げたんです

1984年にREBECCAのボーカリストとしてデビューし、バンド解散後はソロのシンガー・ソングライターとなって独自のポジションを築いているNOKKO。去る3月にリリースされた『TRUE WOMAN』は『THE NOKKO STORY』以来、約5年ぶりのオリジナル・アルバムで、亀田誠治や松任谷由美、松任谷正隆をはじめとする、さまざまなミュージシャンが制作に参加。軽快なロック・ナンバーから流麗なバラード、ソウルフルな楽曲にハウス・トラックまで、多彩なサウンドをパッケージしている。そして、どの曲においてもNOKKOのボーカルがストレートかつエネルギッシュに響いてくるのが心地良い。開放感にあふれながらも力強い本作のサウンドは、どのようにして生み出されたのか? NOKKOの公私のパートナーであり、アルバムのプロデュース/エンジニアリングを務めたGOH HOTODA氏に伺うべく、熱海のプライベート・スタジオへと向かった。

GOH HOTODA

▲プロデューサー/ミックス・エンジニア。1980年代の後半にシカゴのスタジオでハウス・ミュージックの草創期に立ち会い、マドンナ「ヴォーグ」のエンジニアリングを務めたことで世界的な名声を獲得。以降もジャネット・ジャクソンやホイットニー・ヒューストン、坂本龍一、宇多田ヒカルといった一流アーティストの作品を手掛け、グラミーを2度受賞。NOKKO『TRUE WOMAN』でも最新鋭のポップ・サウンドをプロデュースしている。

AT5047をNOKKOの歌に使ったらもう抜群に良い音がするんですよ

ー『TRUE WOMAN』には、NOKKOさんが作詞/作曲した楽曲のほか、さまざまなミュージシャンの携わった作品が収録されていますね。

HOTODA 当初はNOKKOがすべての楽曲を作詞/作曲するつもりだったんですが、ご縁あってユーミンさんや佐橋佳幸さん、いきものがかりの水野良樹君たちにも書いてもらうことになりました。曲作りの基本的な流れは、NOKKOがピアノで作った曲をここ(プライベート・スタジオ)のPRESONUS Studio One 3でデモ音源にしてアレンジャーの方々に送り、完成に向けてやり取りするというものです。普段はここでアレンジの細部まで詰めたりもするんですが、今回はラフな状態のままお任せすることも多かった。それでも、松任谷正隆さんにお願いした「翼」や亀田誠治さんに手掛けてもらった「ふふふ」は1回のやり取りでアレンジが固まり、次のセッションではもうレコーディングという速さだったんです。場所は、ソニー・ミュージックスタジオがメインでした。

ーアレンジャーの方々に編曲の大部分を委ねたのは、どうしてだったのでしょう?

HOTODA 専門家にお願いした方がいいと思ったからです。例えば「卒業写真」は、僕が最初のアレンジを作ったんですね。今までに無い「卒業写真」を作ってみようと思っていたんですが、"和音の響きをさらに広げるためにはどう積めばいいかな?"などと立ち止まることもあったので、松浦晃久さんに最終的なアレンジをお任せしました。コードにはボイシングによって深みや奥行きを出せますよね。プロのアレンジャーは、やっぱりその辺りの技量にたけているんです。

ーデモ制作に活用したStudio Oneは、どのような点が便利だと感じましたか?

HOTODA オーディオのピッチ・トランスポーズやタイム・ストレッチの速度が速く、ソングのキーやテンポを変更したときに待たなくていいのが気に入っています。NOKKOの声域に合わせてキーを調整したり、テンポを詰めていくときなどに便利でしたね。そうやって作ったデモを基に最初のオケを作ってもらい、返ってきたものにAVID Pro Toolsで仮歌を乗せたんです。この段階から、歌録りのサンプル・レートは96kHzでした。マイクなどのセッティングも最後まで同じだったので、アレンジが最終形になる前からボーカルはある程度固まっていたんです。草案のオケでラフに歌ったテイクの方が良いという場合もあるため、仮歌から一定の環境で録っておくとコンピングの幅が広がるわけですよ。

ー仕上がりを聴かせてもらったところ、NOKKOさんのボーカルが非常に生き生きと感じられました。

HOTODA まずはマイクを新しくしたのが良かったのだと思います。これまでは、NEUMANN U87にNEVE 33115のプリアンプとUNIVERSAL AUDIO 1176LNを組み合わせてレコーディングしていました。かつてのCBS・ソニー信濃町スタジオにはNEVEのコンソールがあって、そのヘッド・アンプと1176を組み合わせて歌入れをしていたので、コンビネーションとしてはよく似ているわけです。NOKKO本人にとってもREBECCA初期からの決まったやり方だったのですが、バンドが再結成してライブをよくやり始めた昨年辺りから、声が今まで以上に出るようになったんですね。そうしたら結構な頻度でマイクを吹いてしまうようになって、コンプもかかり過ぎてしまうから、33115のゲインを下げなくてはならないわけですよ。するとSN比が悪化するし、これは困ったなと。そんな折、AUDIO-TECHNICA AT5040というコンデンサー・マイクを試す機会に恵まれたんですが、トランスを追加した新しいモデルが出ると聞いたので、そちらの方に興味が移った......これこそが、今回活躍したAT5047です。試してみると、もう抜群に良くてね。

ーどういったところが魅力なのでしょう?

HOTODA まずは、滅多なことでは吹かれないところ。どこから歌っても吹かれないというか、吹かれでさえも"音"として収めてしまう度量がある。U87だと吹いた部分が音になりませんが、AT5047なら大丈夫。歌詞がちゃんと聴こえてくるし、多少ボコッとはなるけれど、"吹いたかな?"と思う程度です。だから、NOKKOもパフォーマンスしやすかったと思います。そして音が現代的。今時、シルキーで奇麗な音っていうのは、古く感じられるじゃないですか? もっとこう、スマートフォンとかラップトップからビリビリッと出てくるような音でないと、新しい感じがしませんよね。AT5047の音は、そういう感覚にも合っていると思うんです。

ー周波数的には、どのようなキャラクターなのですか?

HOTODA 高域がすごく奇麗で、硬めと言えば硬めなんですが、加工しやすいサウンドです。また、張り付くような感じがあるので、音圧もばっちりですね。AT5040よりつやっぽさを感じるのは、トランスが入っているからでしょう。面白いのは、併用するアウトボードとの相性。これまでと同じ33115→1176のセットだと、声がモタって聴こえたというか、シャープさが足りない感じだったんです。それは33115と1176がいずれもトランス入りの機材で、マイクからコンプのアウトまで、ずっとトランスを通っていたからなんですね。そこで33115をトランスレスのMILLENNIA HV-35 for API 500に替えてみたら、今度は1176のコンプでは賄い切れない部分があるように思えて、RETRO Doublewideに替えてみた。すると、HV-35 for API 500とDoublewideの組み合わせがAT5047と非常に好相性だと分かったんです。つまり今回は、トランス入りのマイクがトランスレスのソリッド・ステート・アンプに入り、真空管コンプを通るというルーティングでボーカルを録ったわけですね。

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年6月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 244ページ
発売日2018.04.25