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2018.05.02

リットーミュージック

渡辺真知子インタビュー/「かもめが翔んだ日」誕生の瞬間|『A面に恋をして』より

text by 谷口由記

シングルの表題曲が"A面"と呼ばれた時代に生まれた名曲について、歌い手自らが振り返る書籍『A面に恋をして 名曲誕生ストーリー』から、貴重な証言の数々を抜粋してお届けするインタビュー。第12弾は、渡辺真知子が語る「かもめが翔んだ日」。

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渡辺真知子「かもめが翔んだ日」

プロが作った歌詞に興奮

―デビュー曲「迷い道」の次のシングルですが、初めて人の詞に曲をつけたそうですね。

 そうなんです。伊藤アキラ先生の詞に曲をつけました。私が詞を書いた「迷い道」は、非常に苦労したんですね。まだ若くてボキャブラリーも少ないし、アマチュア上がりの私にはとても難しかったんです。

―ご自身で作詞・作曲した「迷い道」では、とくに詞の部分で苦労されたんですね。

 最初は、もっと別のかわいらしいポップな感じの曲がA面になるはずだったんです。だけど、いざレコーディングの話になったら、私が「ちょっと待って」「今、面白そうな曲ができそうだから」って、ディレクターに待ってもらったんです。私としては、そのポップな曲でデビューすることに抵抗があったんですね。そこで、ちょっと踏ん張って。
 当時、私は21歳で、中曽根浩二ディレクターは30過ぎでかなり恰幅のいい熱い方で、私は彼の前では、蛇に睨まれた蛙というか、目を見たら何も話せなくなるような感じで。かなり威圧感があったんです。そんな彼が、「それだけやる気があるなら」って言ってくれたんですけど、そこからダメ出しとの戦いが始まるんです。彼も大変だったと思いますけどね。何回もやり直しになっていたので、「いい加減、良いのを作ってくれよ」っていう。でも、そうやって作った「迷い道」が、思いのほかうまくいったので、それだったら、次は時間もないし、詞は先生に頼んでみようということになったんです。自分の生まれた横須賀を舞台に、女の子が失恋して、海岸で、というシチュエーションを伝えて、それを元に伊藤先生が作ってくださいました。

―その詞にメロディをつけていく作業になったんですね。

 昔の弘田三枝子さんみたいな、ドラマティックな歌謡曲が大好きだったんですけど、ああいう方のヒット・ソングを自分で歌ってみても、やはりご本人の声に合わせて作られているんだな、いくら私がその曲を好きで歌っても、それ以上にいけないな、と感じていたんです。
 私たちの時代には、ポピュラー・ソング・コンテストができて、自分たちで曲を作って歌うという環境があったんですけど、私としてはプロの方の作品に憧れがあったし、2作目のときにそれが詞だけでも叶ったのは、本当に嬉しいお話だったんですよ。「えー、信じられなーい!」って。

―プロの作詞家が詞を書いてくれたことが嬉しかったんですね。

 私は、歌うことが好きなのであって、自分がシンガーソングライターだという気負いは、何もないんです。
 目の前に、伊藤アキラさんの手書きの原稿用紙があって。太い万年筆なのかな、青いインクで、ちょっとかわいらしい字で。それだけで発想を掻き立てられるものがありました。もう震えるくらいの嬉しい気持ちで。
 それで、これにメロディがつくとしたら、どんなものだろう? と思いながら読んでみたら、「かもめが翔んだ かもめが翔んだ あなたは一人で生きられるのね」という部分がポーンと目に飛び込んできたんです。どうやら悲しい歌らしいなぁと。でも「翔んでいる」感じを出したくて、「かもめがー翔んだー」ってその場で歌ってみたら、「いいじゃない! 忘れないうちに書いて!」と言ってもらえたので、すぐに譜面にして。

かもめJ.jpg―その時点でサビはできたんですね。

 サビはそのときのままです。そのほかの部分も、その場でだいたいできて、家に帰って録音しておいたカセットを聴きながら整えて。前の曲に比べて調子よくパパッとできたのは、言葉からもらった部分も大きかったんだと思います。
 でも、一度完成はしたんですけど、ディレクターが「何かが足りない」「朝ぼらけから太陽が昇っていく感じの幕開けが欲しい」と言い始めて。それで、伊藤先生に歌の最初に2行足してもらうことになったんです。先生は「えー? これに2行つけるの?」って驚いていましたけど、それでできたのが、あの「ハーバーライトが〜」の部分なんです。
 そのとき、私はもう新曲にとりかかっていたんですけど、作っていただいた追加の歌詞を見て、ディレクターが「ちょっと待てよ。この詞を新曲のメロディに乗せてみたら?」って。そして、歌ってみると、「いいじゃない!」って。

―頭の部分は別の曲だったんですか?

 ええ。そのときに、「一羽の、かもめーがー、翔んだー」って少しずつかもめが高く翔んでいくイメージで歌ったら、拍手が起きて(笑)。新しく作っていた曲は分解してしまって、必要なところをくっつけたんです。

―別の曲のフレーズを組み合わせるというのは、曲作りのなかでは、よくあることですか?

 往々にしてあることです。お気に入りの布があって素敵なドレスを作りたいけど、良いデザインが思い浮かばないという状態があって、何かのデザインを見たときに、「あ、これはあの生地で作ったら良いものになるに違いない」という出会いの感覚というか。お互いに引き立てる組み合わせというのをよく考えますね。パズルみたいに曲を作るというか。


(続きは書籍『A面に恋をして』にて!)

わたなべ・まちこ●1956年神奈川県生まれ。1977年、「迷い道」でデビュー、『第29回NHK紅白歌合戦』に初出場する。「かもめが翔んだ日」で第20回日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞したほか、「唇よ、熱く君を語れ」などヒット曲多数。デビュー40周年企画盤『私はわすれない~ 人生が微笑む瞬間(とき)〜』が発売中。
http://kamome-music.com/


A面に恋をして 名曲誕生ストーリー

品種書籍
仕様四六判 / 192ページ
発売日2018.03.16

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