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2018.05.10

サウンド&レコーディング・マガジン

ケンドリック・ラマーとSZAによる楽曲「オール・ザ・スターズ」のミックスを徹底解剖!|サウンド&レコーディング・マガジン2018年6月号より

Text by Paul Tingen Translation by Takuto Kaneko

マーベル映画最新作『ブラック・パンサー』のリード・シングル
「オール・ザ・スターズ」のミックスをマット・シェ−ファーが語る

これまでに11回ものグラミー受賞歴があるアメリカのラッパー、ケンドリック・ラマー。彼は今までに3つのアルバムで全米チャート1位を飾っている。正確に言えば3枚目の『ブラックパンサー ザ・アルバム』は、マーベル・スタジオによる映画『ブラックパンサー』のインスパイアド・アルバムであり、ラマーと、彼のレーベル、トップ・ドッグ・エンタテイメントのCEOを務めるアンソニー"トップ・ドッグ"ティフィスが全面プロデュースした作品だ。このアルバムのリード・シングル「オール・ザ・スターズ」は、ケンドリック・ラマーとグラミー新人賞ノミネート歌手シザによる楽曲で、全米ビルボード・チャート5位を獲得。この作品のミックスを手掛けたのがマット・シェーファーであり、同アルバムでは11曲でレコーディングとミックスを担当した。ここではそのシェーファーに「オール・ザ・スターズ」のミックスについての話を中心に聞いていこう。

マット・シェーファー(エンジニア)

▲バークリー音楽大学にてフィルム・スコアリングとエンジニアリングを学んだ経歴を持つLA在住のエンジニア、マット・シェーファー。現在はインタースコープ・スタジオでレコーディング/ミックス/プロデュースまで幅広く手掛け、ケンドリック・ラマー『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』ではグラミー受賞経験を持つ。『ブラックパンサー ザ・アルバム』では11曲でレコーディングとミックスを担当。彼の背後にはFOCAL Twin6 BEやYAMAHA NS-10M Studioが鎮座している。また、デスク上にはDYNAUDIO PRO BM6A、PRESONUS Monitor Station、NORD Nord Electroなどが見える

5カ月間のほぼ毎日が
レコーディングとミックスの日々

 ラマーはスタジオ・ワークに時間を費やすことで知られている。この『ブラックパンサー ザ・アルバム』のプロデュース・オファーがあった際にも、監督のライアン・クーグラー氏から進行中の映像を見せられるやいなやスタジオを数カ月予約したという。結果的に彼はこの作品をサウンウェイヴとコラボレーションして作り上げることになった。彼はラマーのレーベル、トップ・ドッグ・エンタテイメントのメイン・ビート・メイカー兼プロデューサーだ。映画『ブラックパンサー』のサウンドトラックは実際には2つ存在する。1つはルードウィック・ヨーランソンによる『ブラックパンサー (オリジナル・スコア)』、そしてもう1つがラマーと彼のレーベルのCEOを務めるアンソニー"トップ・ドッグ"ティフィスが全面プロデュースする『ブラックパンサー ザ・アルバム』。ラマーはこのアルバム全14曲の作曲に携わり、サウンウェイヴはそのうち12曲に共同制作者として名を連ねている。ほかにも多くのビッグ・ネーム・アーティストが参加し、その中にはザ・ウィークエンド、フューチャー、シザ、2チェインズ、ジェイムス・ブレイクなどの面々が並ぶ。

 ラマーとサウンウェイヴによる基本的な曲作りの大部分は、ラマーの全米ツアー中にツアー・バス内で行われたそうだが、そのほかの制作作業はカリフォルニア州にあるウインドマーク・レコーディングとインタースコープ・スタジオで2017年9月から2018年1月にかけて行われた。「5カ月間、ほぼ毎日がレコーディングとミックスの日々だったよ」と語るのはウインドマーク・レコーディング・スタジオとインタースコープ・スタジオでレコーディング/ミックスを手掛けたマット・シェーファーだ。

 「曲作りの段階からほとんど俺が同席していたね。ツアーの最中からスケッチは始まっていたんだ。スタジオに入ってからも曲作りは続いていたよ。映画のシーンを見ながら曲がフィットするかも確かめていた」

狙っているゴールは常に変化し
テンポや曲の構成もコンスタントに変わる

 シェーファーによれば、曲作りのスタートになるループは外部チームが制作したものが使われることもあったそうだ。例えばリード・シングルの「オール・ザ・スターズ」の場合、最初のアイディアはイギリス人ビート・メイカーのアル・シャックスから送られてきたものが元になったという。

 「サウンウェイヴはAKAI PROFESSIONAL MPC StudioとMPC Software、MIDIキーボードを使って演奏していた。それをAVID Pro Toolsに取り込んで作業を進めるんだ。ウインドマーク・レコーディング・スタジオではバイオリンも録った。「オール・ザ・スターズ」ではエジンマというバイオリニストがストリングス・アレンジを担当していて、計8回重ねて録ったんだ。このレコーディングには専用のセッション・ファイルを用意した。オリジナル・セッションを使うとトラックが多くなり過ぎるからね。バイオリンはTELEFUNKEN Ela M 251を使って録って、最終的にステムにまとめてオリジナル・セッションに取り込んでおいたんだ」

 そのほかにも、ザ・ウィークエンドやヴィンス・ステイプルスらのボーカルは彼らから送られてきたトラックが使用されているが、それ以外の多くのボーカリストはシェーファーによって録られた。特に、彼の主なフォーカスはラマーを録ることにあったという。

 「ケンドリックを録るときはいつもPro Toolsのプレイリストを使うんだけど、時にはそれが300〜400にもなることがあるよ! 初期のプレイリストは発展途上みたいなものだから使わず、その代わりに最新のテイクを使うんだ。後から問題が出てきたときだけ前のプレイリストから何かを引っ張ってくるというやり方だよ。理由の一つに、ケンドリックが狙っているゴールが常に変化しているということも挙げられる。テンポも変わるし、曲の構成もコンスタントに変わっていくんだ。だから全く違うビートの上で録ったボーカルを今のビートに合わせるという作業もするときもあるよ。この変化のプロセスはミックスからマスタリングのときまで続くんだ」

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年6月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 244ページ
発売日2018.04.25

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