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2018.01.10

【Interview】上原ひろみ|キーボード・マガジン2018年WINTER号より

Text by Tomoko Ide/Photo by Giovanni Capriotti

2016年6月に開催されたモントリオール・ジャズ・フェスティバルで、ジャズ・ハープ奏者のエドマール・カスタネーダと衝撃的な出会いをした上原ひろみ。1年後、出会いの場となったモントリオールの地で再び共演した2人は、ライブ盤『ライヴ・イン・モントリオール』を作り上げる。これまでトリオやピアノ・デュオなどで新境地を開拓し続けてきた上原に、エドマールとのコラボレーションはどのような影響を与えたのだろうか。新たな相棒を得てより一層輝きを増した彼女に、本作を作るまでの様子やハープの概念を覆すほどのエドマールの演奏について話を聞いた。また誌面では、プロジェクトのために書き下ろした四部作「ジ・エレメンツ」について譜面付きで本人に解説してもらっている。

"ハープとの制作は、制約が可能性になった"

─ハープというとクラシカルなイメージがあったので、今回上原さんがハープの方と一緒にやると聞いて驚きました。互いにニューヨークを拠点に活動するジャズ・ミュージシャンでありながら、エドマールの演奏を聴いたのは1年前のモントリオール・ジャズ・フェスティバルの舞台袖が初めてだったそうですね。演奏を聴いたとき、どんな印象を受けましたか?

上原 びっくりしました。これまでハープという楽器をちゃんと聴いたことがなくて、オーケストラの中で聴くことしかなかったので、まさかあんなに情熱的であんなにリズミカルな楽器だとは思いませんでした。最初に演奏を聴いたときは、まさに未知との遭遇。それと同時に、すごく共鳴するものを感じて。それはお互い感じていたので、すぐに連絡先を交換して"いつか一緒にやろうね"という話をして別れました。結局その"いつか"は1カ月後になったんですけど(笑)。翌月ブルーノート・ニューヨークで私の公演があったので、エドマールに3、4曲ゲストで入ってもらいました。

─出会いから共演までが1カ月というのは相当早いですよね。エドマールは上原さんの猛プッシュに対しては?

上原 最初はびっくりしたけれど、今となってはひろみらしいって(笑)。それがひろみだよねって。今ではもうお互いの性格を分かっていて、私が思い立ったら即行動という性格を知っているので、"ひろみの人となりを知るととても納得がいく"っていつも言っていますけど。

─エドマールをゲストで呼んだとき、どのようにコラボレーションしようと考えたんですか?

上原 2人ともずっとツアーを回っている時期だったので、実はライブまで一度も合わせることなく本番を迎えたんです。当日会ってサウンド・チェックで少しリハーサルをして、そのまま本番という感じで。もちろんその前にお互いがやりたい曲については話し合っていました。私がエドマールのライブを聴いてやりたかった曲の楽譜を送ってもらったり、私も自分の曲の楽譜を送ったりしながら......。

─やり取りする中で、お互いの譜面を書いたりしたんですか?

上原 メロディとコードぐらいは書きました。

─本番までの1カ月の間にハープのことについても調べたりして?

上原 いや、そのときはまだ全然(笑)。エドマールの曲の中で好きなものと自分が弾いてほしいものを送っただけで、ハープのことについてはまったく分かっていなくて、一緒にやりながら作っていこうぐらいの感じでした。それで何曲か提案した曲の中に、"その曲はハープじゃできないよ"って言われた曲があったんです。でもそれがどういう意味か分からなくて、"ハープでできないってどういうこと?"って聞いたら、会ったときに見せるよと言われて。後日説明してもらってから、やっと"こういう音階は出るけどこういう音階は出ないんだ"とか、"こういうコード進行はできるけどこういうコード進行はできないんだ"って、ライブ当日に初めて理解したんです。ライブは全部で4公演やったんですけど、思っていた以上に共鳴を感じたので、すぐに一緒にツアーを回りたいという話をしました。それもまたすごく早いんですけど(笑)、"来年何やってる?"という話になって、一緒に回ることを決めてから本格的にハープについて勉強したんです。

─一緒に回ろうと提案したツアーも、ちょっとしたツアーではなく、北米、ヨーロッパ、南米とかなりいろいろなところに行っていますよね。エドマールが使用しているのは、そもそもクラシック奏者が使うハープとは違うんですよね?

上原 クラシック奏者が使っているのはペダルが付いたペダル・ハープというものなんですけど、彼のハープはベネズエラやコロンビアでアルパと呼ばれている、上にレバーが付いているレバー・ハープです。

─そのハープは全音階しか出せず、ピアノの黒鍵にあたる半音階が出ないそうですね。ハープの仕組みを聞いていざ曲を作ろうとなったときに、いろいろと制約があるわけじゃないですか。これまでそういう状態で曲を作ったことってないと思うんですけど、自分の中から湧き出てくるものをピアノで弾いて作り上げる方法とはまた違って、いかがでしたか?

上原 自分がここでこう行こうと思っていても、これはハープで弾けないなと思ったら別のコード進行を探さなきゃいけない。でもそうすると、逆に制約が可能性になるんですね。本来なら自分が行かなかった方向にプッシュされるので、書き手としても新しい発見がたくさんありました。

(続きはキーボード・マガジン 2018年1月号 WINTERにて!)


キーボード・マガジン 2018年1月号

品種雑誌
仕様A4変形判 / 172ページ / CD、ビンテージ・シンセ・カレンダー付き
発売日2017.12.09