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2018.01.15

【Special】D.O.I.×SUIが徹底解剖!2018年の"旬"なサウンド|サウンド&レコーディング・マガジン2018年2月号より

Text by Yuichiro Shiraishi / Photo by Hiroki Obara

2017年もアメリカ、ヨーロッパ、日本では数多くの作品が世に出ました。ネットには日々新しい音源がアップロードされ、何がオフィシャル・リリースかも分かりにくい、混とんとした状況です。またストリーミング後進国であった日本でもSpotifyやApple Musicの認知度が高まり、従来の売り上げとは異なる尺度でのチャートがリスナーの支持を得るなど、音楽を取り巻く環境は1年前と比較しても大きく様変わりしました。そんな中、本誌は今年もD.O.I.氏とSUI氏に2017年の洋楽/邦楽/機材の動向を含めた"まとめ"の対談を依頼。共にプロフェッショナルの音楽家としてシーンの最前線で活躍する2人の貴重な談話から"旬"なサウンドの傾向をつかみ、2018年に向けた音楽活動のヒントにしていただければ幸いです。

D.O.I.(左)
【Profile】Daimonion Recordingsを拠点とするエンジニア。ヒップホップを中心に多彩な音楽に精通し、海外のメジャー・プロデューサーから日本のアンダーグラウンドまでレンジの広い作品のミキシングを手掛ける

SUI(右)
【Profile】作曲、トラック・メイクからボーカルのディレクション、ミックス・ダウン、マスタリングまで手掛ける作家/プロデューシング・エンジニア。近年は劇伴やCM音楽にも活躍のフィールドを広げつつある

ヒップホップに染まった洋楽ポップス
ビルボード・トップ40の影響力が低下?

ーまず、2017年の洋楽シーンの動向から振り返っていただきたいと思います。

D.O.I. 洋楽全般的には"ヒップホップ祭り"だった感があります。若手から中堅、ベテランまでリリースも多かったですね。年頭からミーゴスの『Culture』が出ましたし、ドレイクの『More Life』を"すごい!"と言っていたらケンドリック・ラマー『ダム』も出た。そうしたリリース・ラッシュにあおられたのか、ジェイ・Zまで新作『4:44』をリリースしたのにはビックリしました。

SUI ミーゴスは若者らしい勢いがありました。一方でケンドリックはシリアスにアーティストとしての葛藤を歌い、ジェイ・Zは"浮気してゴメンね"という......いずれもビッグ・リリースですが、内容の対比が面白かったです。


ミーゴス(Migos)......ジョージア州ローレンスヴィル出身のクエヴォ、テイクオフ、オフセットによるラップ・トリオ。2013年、ゼイトーヴェンがプロデュースした「Versace」でメジャー・デビューを果たし、ドレイクがリミックスを手掛けるなど話題となる。2016年にはカニエ・ウェストのG.O.O.D. Musicとマネージメント契約を結び、リル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)をフィーチャーした「Bad and Boujee」が全米2位を記録。リリックは若者らしくボースティング的なものがほとんどだが、クエヴォのフロウの巧みさと声質の良さを中心に人気を博し、今や全米のポップ・スターに。

D.O.I. OFWGKTAのタイラー・ザ・クリエイター、シド、フレンチ・モンタナ、フューチャーなど"出すべき人が出していた"感があります。コダック・ブラックも2枚リリースしましたし。

SUI 2枚ともオフィシャルでしたっけ?

D.O.I. 3月に出た『Painting Pictures』はオフィシャルで、10月の『Project Baby 2』は8月に出したミックス・テープのCD化ですね。今や何をもって"オフィシャル・アルバム"とするのか、よく分からない状況です。


シド(Syd)......ロサンゼルスをベースに活動するヒップホップ・コレクティブOFWGKTAの紅一点にして、ジ・インターネットのメイン・ボーカルも務めるシド・ザ・キッド。シド名義での1stソロ・アルバム『フィン』は、制作陣にヒット・ボーイ、ラーキ、メロー・Xら敏腕を迎え、自身も5曲をプロデュース。生音主体のジ・インターネットと一線を画した、ひんやりとしたプログラミングとクールなボーカルを披露している。

ーサウンドが印象に残った作品はありましたか?

D.O.I. DJキャレドのようにトップ40を狙った作風で成績が良いのは分かるのですが、一番びっくりしたのは、音がひずみまくった「Look At Me!」で有名になったエクステンタシオン。アルバム『17』もアンダーグラウンド感満載ですが、ずっとトップ40に入っていましたから。ヒップホップに関しては、万人受けなのかアンダーグラウンドなのか境目が怪しくなってきた感があります。

SUI 確かに。僕もビルボードが肌感と異なる部分が顕著になった気がします。Spotifyも"バイラル・チャート"という、SNSやエアプレイで話題になっている曲を集めたリストの方が、聴いていてしっくりくるんです。


エクステンタシオン(XXXTENTACION)......フロリダ出身の20歳のラッパー。2015年12月31日に「Look At Me!」を公開。アンダーグラウンドな存在であったが、ドレイクが新曲で同曲のフロウをパクったとの報がYouTubeを中心に盛り上がり、MVが1,000万再生を記録。発表から1年以上がたった後、ビルボードのトップ100入りを果たした。UKのダブステップ・クリエイター=マーラ「Changes」の声ネタのテンポを大きく落とし、ひずみまくったドラムと組み合わせたトラックのインパクトは大きく、2017年にリリースしたアルバム『17』に続くミックス・テープ『Revenge』にも収録されている。

D.O.I. ヒップホップ・プロダクション的には、トラップで画一化してきている感がありました。その中で面白かったのは、ヴィンス・ステイプルズ『Big Fish Theory』。あと最近出たウィル・スミスの息子、ジェイデン・スミスの『Syre』も良かったです。前者はベース・ミュージック系の人が入っていて、後者もリドがビートを提供していたりする。トラップ系は良くも悪くも作りが雑なんですが、この2組はミックスまで含めてしっかりと音像を構築できていた点でも印象に残りました。


▲ヴィンス・ステイプルズ......メジャー・デビュー作『Summertime '06』で"F**k Gangsta Rap"とラップするなど、特異な存在感を放つロングビーチ出身のMC。2016年のEP『Primma Donna』ではジェイムス・ブレイクをゲストに迎え、エレクトロニック・ミュージックへの嗜好を垣間見せていたが、最新作『Big Fish Theory』では、ダディ・ケヴ率いるALPHA PUP所属のザック・セコフ(Zack Sekoff)をメイン・プロデューサーに迎え、ソフィーやフルームも参加。トラップとは一線を画したクールなエレクトロニック・サウンドを展開した。

SUI 僕は、ひずんだROLAND TR-808のキック・ベースにグランジ的なギターを乗せたリル・ピープのサウンドを新鮮に感じていたので、亡くなってしまったのは残念でした。一方のトラップ系では、メトロ・ブーミンや808マフィア、ゼイトーヴェンなどのベテラン・プロデューサーたちが進化していて、まさに"鉄板"という感じでしたね。


▲リル・ピープ......ニューヨーク出身の白人ラッパーで、ヒップホップ・クルーGOTHBOICLIQUEのメンバー。本名はグスタフ・アール。オアシス「ワンダーウォール」をサンプリングした「Yesterday」などをSoundCloudで発表し、注目を集める。トラップ・ビートにロック的なギター・サウンドを取り込んだサウンドは新鮮さを持って迎えられ、"ラップ界のカート・コバーン"と賞されたことも。2017年11月、アルバム『Come Over When You're Sober, Pt.1』のリリースに伴うツアーで訪れたアリゾナにおいて、向精神薬の過剰摂取により21歳で逝去。

ー彼らの進化とは?

SUI ビートそのものはある種の到達点にあると思うのですが、"どのラッパーにどんなラップを乗せてもらうか"までトータルで見られるようになってきたように感じます。実績を重ねることで回りに自然と優秀なラッパーが集まるようになり、曲全体の質が上がっているんです。

D.O.I. ビートに大きな変化が無いからこそ、ミーゴスやカーディ・B、コダック・ブラックなど"声"に特徴がある人が売れた気がします。

SUI 確かにラッパー主体でしたね。そんな中、アルバム単位で僕が最も飽きずに聴けたのは、ジョーイ・バッドアス『All-Amerikkkan Badass』。あとDJキャレドの『グレイトフル』も聴きやすくて、"DJアルバム"というくくりでは相当の功績を残したと思います。

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年2月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年2月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 244ページ
発売日2017.12.25