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2017.10.13

ザ・スパイダース隠れ名曲ガイド by 中村俊夫|エッジィな男 ムッシュかまやつより

Text by 中村俊夫

処女作「フリフリ」以来、スパイダースのメイン・ソングライターとして数多くの作品を生み出してきたムッシュ。「ノー・ノー・ボーイ」「あの時君は若かった」「バン・バン・バン」等、誰もが知るスパイダース栄光のヒット曲だけでなく、それらのシングルB面やアルバム収録曲の中にはヒットこそしなかったものの、現在ではスパイダース現役時代を知らない世代からも支持され、マニアックな人気を集めている楽曲も少なくない。そんなムッシュ作のスパイダース〝隠れ名曲〟とでも呼べそうな作品を紹介してみよう。

●ヘイ・ボーイ

ファースト・アルバム『ザ・スパイダース・アルバムNo.1』からのシングル・カットで、66年4月15日にアルバムと同時発売されたフィリップス籍第2弾シングル曲。キングスメン「ルイ・ルイ」を模した(同曲のキンクス・バージョンに近いか...?)と思われるイントロから、間奏の荒削りなギター・ソロ(これもキンクスっぽい)、そして唐突に終わるラストまで、洪水のようなガレージ・サウンドの応酬は、まさに国産オリジナル・ロックのパイオニアと呼ぶにふさわしい切れ味がある。80年代以降に登場したネオGSたちもこぞってレパートリーに取り上げている人気曲であり、86年8月にリリースされたインディーズ系アーティストたちによるスパイダース・トリビュート・アルバム『スパイダース大作戦』では、デキシード・ザ・エモンズによるカバー・バージョンを聴くことができる。また、『ムッシュ・ファースト・ライヴ』(78年)、『THE SPIDERS COVER'S』(89年)、『我が名はムッシュ』(02年)でムッシュ自身がカバー。『我が名はムッシュ』収録バージョンは堺正章との共演である。日活映画『青春ア・ゴーゴー』(66年/森永健次郎・監督)、『ザ・スパイダースのバリ島珍道中』(68年/西河克己・監督)では演奏シーンを観ることができる。

●ビター・フォー・マイ・テイスト

ファースト・アルバム『ザ・スパイダース・アルバムNo.1』収録。サーチャーズあたりのマージー・ビート系サウンドに、時おりカントリー&ウェスタン的風情が顔を出す切ないバラードだ。ヨーロッパ映画の配給で知られる東和映画社長・川喜多長政の長女・川喜多和子が英語詞を手がけている。アルバム『THE SPIDERS COVER'S』では、ムッシュ自身が日本語詞を書き加え、今剛によるミディアム・テンポのロック・アレンジでセルフ・カバーしている。

●ワンス・アゲイン

ファースト・アルバム『ザ・スパイダース・アルバムNo.1』収録曲で、ムッシュとは縁の深い「キャンティ」の女主人・川添梶子が旧姓を用いた「岩元梶子」のペンネームで英語詞を手がけている。大野克夫の弾くVOXオルガンを全面的にフィーチャーしたサウンドは、アニマルズっぽいイントロから始まり、間奏ではゾンビーズを彷彿させるブリティッシュ・ビート風オリジナル楽曲に仕上がっている。

●落ちる涙

これもファースト・アルバム『ザ・スパイダース・アルバムNo.1』に収録された川添梶子が英語詞を手がけた作品。「ワンス・アゲイン」同様に大野克夫の弾くVOXオルガンが印象的で、ブリティッシュ・ビート風サウンドにジャジーな感覚が見事にミックスされているところが、同時代の凡百のバンドとは一線を画すスパイダースのセンスの良さと言えるだろう。

●なればいい

66年7月1日にリリースされたスパイダースの6枚目のシングル「サマー・ガール」B面収録曲。時代を先取りしたサイケデリック・ナンバーで、シュールな歌詞を提供した「オリベゆり」は、68年度ミス・ユニバース日本代表になった飯野矢住代(故人)のペンネームである。日活映画『ザ・スパイダースの大騒動』(68年/森永健次郎・監督)で、ファズ・ギターをフィーチャーしたサイケ・アレンジの同曲を演奏するシーンを観ることができる他、実際には映画本編では使用されなかったものの、日活映画『ザ・スパイダースのゴーゴー向う見ず作戦』(67年/斉藤武市・監督)のサウンドトラック用に、アップテンポのサイケ・アレンジ・バージョンも録音されている(CD『ザ・スパイダース・ムーヴィー・トラックス』収録)。また、米国のオルタナ系バンド「ウェルウォーター・コンスピラシー」が、日本語詞のままでカバーしたシングル(A面はカーナビーツ「すてきなサンディ」のカバー)を98年にリリースしており、若い後追いGSマニアの間で話題となった。

●夢のDC8

日本航空世界一周路線開設記念キャンペーンとのタイアップとして企画され、67年3月1日にリリースされたスパイダースとサベージの競演アルバム『ゴー!スパイダース、フライ!サベージ』収録曲で、タイトルの〝DC8〟とはダグラス・エアクラフト社の当時最新鋭のジェット旅客機の名前だ。オープニングのコーラス・ワークとAメロはビーチ・ボーイズ風で、Bメロからいきなりブリティッシュ・ビート風の〝翳り〟が入り、再びオープニングの〝カリフォルニアの陽光〟に戻ったと思ったら、間奏はホリーズ「アイ・キャント・レット・ゴー」のサビメロからヒントを得たと思われるフレーズをバグパイプ風な音色のギターが奏でるという、60年代米英のポップスから得たアイディアを巧みにミックスした構成になっている。ビーチ・ボーイズmeet ビートルズ(ブリティッシュ・ビート)という視点では、「サマー・ガール」と似た構造の作品と言えるだろう。

●恋のドクター

洋の東西を問わず、優れた音楽グループ(もしくはアーティスト)は作品の中にシニカルさとクールなユーモア感覚を漂わせているもので、ビートルズもキンクス(レイ・デイヴィス)もクレイジーキャッツも大滝詠一も、そしてスパイダース、ムッシュも然りである。本作は、スパイダースがその持ち前のお笑いセンスを発揮したオリジナル・ノヴェルティ・ソングで、67年8月25日にリリースされたシングル「あの虹をつかもう」(映画『ザ・スパイダースのゴーゴー向う見ず作戦』主題歌)のB面収録曲。

 ツイスト〜フライ〜マッシュポテト〜ポニー等に続いて62年頃にアメリカで流行ったダンス・リズム「ワトゥシ」を取り入れた作品である。映画『ザ・スパイダースのゴーゴー向う見ず作戦』の中で挿入歌として使われているが、コント仕立てのPVを観ているようで楽しい。アルバム『THE SPIDERS COVER'S』では、小室哲哉(JUNKERS 名義)のキーボードとB'z松本孝弘のギターをバックにムッシュが歌うセルフ・カバー・バージョンを聴くことができる。

●イヴ

67年9月5日にリリースされた『ザ・スパイダース・アルバムNo.4』収録曲。久々に「キャンティ」の川添梶子(岩元梶子)が作詞(英語詞)を手がけている。イントロとブリッジ、エンディングに現在のサンプリングに似た手法で雅楽の笙や琵琶の音を用いながらも、メロディ自体はフレンチ・ポップ調という風変わりな作品。ザ・タイガースの主演映画『華やかなる招待』(68年/東宝)の中で、加橋かつみがアコギを弾きながらスロー・アレンジでこの曲の一節を歌うシーンがあるが、当時、彼が雑誌『ティーンルック』(主婦と生活社)に連載していたイラスト・コラムのタイトルが「イヴ」(スペルは〝YVES〟)であった。

●僕のハートはダン!ダン!

『ザ・スパイダース・アルバムNo.4』収録曲。ムッシュのほのぼのとしたボーカルと堺正章、井上順の合いの手が楽しいノヴェルティ・ソング。ソロ・アルバム『ムッシュー/かまやつひろしの世界』では、ティーブ釜萢が自作の英語詞で歌った親子共演バージョンが収録されている。

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エッジィな男 ムッシュかまやつ

品種書籍
仕様四六判 / 280ページ
発売日2017.10.13

●暗闇にバラを捨てよう

68年1月公開の主演映画第2弾『ザ・スパイダースの大進撃』(日活/中平康・監督)の挿入歌で、映画封切りに先行して67年12月25日にリリースされた同名オリジナル・サウンドトラック・アルバム(17センチEP2枚組)にも収録された。イントロからエンディングまで鳴り渡るファズ・ギターとオルガンが印象的な作品で、特にエンディングで一気にスウィンギング・ロンドンへと引き込む手法はお見事!

●メラ・メラ

映画『ザ・スパイダースの大進撃』の挿入歌で、同名オリジナル・サウンドトラック・アルバムにも収録された他、『ザ・スパイダースのバリ島珍道中』でも新録バージョンが挿入歌として使われている。「フリフリ」「バン・バン・バン」と並ぶスパイダースの〝ワンフレーズ・ロック〟曲の代表作で、日本ガレージ・ロックの古典と言える傑作だ。GS後追い世代にも人気が高く、トリビュート・アルバム『スパイダース大作戦』で、デキシード・ザ・エモンズもカバーしている。

●もう一度もう一度

元々は映画『ザ・スパイダースの大進撃』の挿入歌として作られた作品で、同名オリジナル・サウンドトラック・アルバムにも収録された。その後、再レコーディング・バージョンがシングル「あの時君は若かった」のB面曲として、68年3月25日にリリースされている。ビーチ・ボーイズ「サーファー・ガール」ばりのコーラスをフィーチャーしたバラード・ナンバー。

●赤いドレスの女の子

スパイダースの通算16作目のシングルとして68年6月5日にリリースされた「真珠の涙」のB面収録曲で、日活映画『ザ・スパイダースのバリ島珍道中』のオープニングでも使われた。スティーヴィー・ワンダー「アップ・タイト」を意識したと思われる間奏のトランペットを演奏しているのは日野皓正。アルバム『THE SPIDERS COVER'S』では、パッパラー河合(ギター)、ファンキー末吉(ドラムス)、聖飢魔Ⅱのゼノン石川(ベース)をバックにムッシュがリメイクしている。

●エンド・オブ・ラヴ

68年10月25日にリリースされたアルバム『明治百年、すぱいだーす七年』収録曲。当時日本でもミュージシャンや洋楽ファンたちから注目を集めつつあったジミ・ヘンドリックスの「If 6 Was 9」を意識したようなイントロのリフ、ドラムとキーボードの定位が左右にパニングするサイケデリックな間奏とエンディングが印象的な、スパイダースのニューロック対応作品である。

●コケコッコー

これもスパイダースのニューロック対応作品のひとつで、69年8月25日にリリースされた通算19枚目のシングル「夜明けの二人」のB面収録曲。ムッシュにとってはアルバム『ザ・スパイダース・アルバムNo.1』収録の「ロビー・ロビー」以来、久々の阿久悠との共作である。堺正章と井上順の掛け合いも楽しいノヴェルティ・ソングで、ニワトリの鳴き声を模したチッキン奏法を披露する井上堯之のギター・プレイも聴きもの。

●黒ゆりの詩

〝隠れ名曲〟と呼ぶにはちょっと語弊のある有名曲だが、スパイダースを語る上での重要曲としては見落とされがちなだけに、あえて本曲も隠れ名曲と呼びたい。「真珠の涙」に続く通算16作目のシングルとして、GSブームもピークが終わろうとしていた66年9月5日にリリースされ、オリコン37位にランクされている。アソシエイションの全米ナンバーワン・ヒット「チェリッシュ」をモチーフにしたようなソフト・ロック・ナンバーで、編曲を手がけた大野克夫の弾くエレキ・シタールが浮遊感あふれるサイケデリックなムードを醸し出している。67年夏にサンフランシスコを中心に巻き起こった「Summer of Love」と呼ばれるヒッピー・ムーヴメントの中で誕生したフラワー・ソングの数々(代表作はスコット・マッケンジー「花のサンフランシスコ」)への、一年遅れの返答とも言うべきスパイダース版フラワー・ソングである。

(続きは「エッジィな男 ムッシュかまやつ」にて!)


エッジィな男 ムッシュかまやつ

品種書籍
仕様四六判 / 280ページ
発売日2017.10.13