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2017.07.17

佐野康夫インタビュー|リズム&ドラム・マガジン2017年8月号より

Interview&Text by 村田誠二 Photo by 菊地英二

佐野康夫インタビュー

 ジャンル不問のスタジオ・グレイト、佐野康夫。"裏方"を自認する職人気質からか、これまで"教則作品"は本分ではないと多くのオファーを断ってきた氏だが、満を持して、ドキュメンタリーという形で映像作品『佐野康夫 ドラムレコーディングの流儀』を発表。とうとう氏のプレイはもちろん"スタジオ・ワーク"の機微にまで触れることができる。今回はDVDでも語られるキーワードを端緒に氏のミュージシャンシップのキモに迫ってみたい。

僕のひと言くらいで 助けになることがあるのかな

─まず、今回佐野さんのDVDが出ると知って、「とうとう!」という思いと同時に、ご自身が言わば"主役"の映像作品を引き受けられたことに少し驚きがありました。もちろん、観れば"ドラム・レコーディングのドキュメンタリー"という大いに納得の内容になっているのですが、このDVDを引き受けたのは、どういう心境の変化があったのでしょうか?

佐野 いわゆる"教則DVD"って、ずっと僕にはできないと思ってきたので、それをやるつもりはまったくなかったんですけど、ここ最近、ドラムを始めた若い子達が、何かに悩んでいたりするのであれば、僕のひと言くらいで助けになることがあるのかな?って思う瞬間が結構あったんですよ。それで「そんなことで悩まなくていいんだよ」っていうことを伝える手段として、何か有効なやり方はないかな?とは思っていて、自分自身をちゃんと人に伝える方法としては、自分から能動的に解説したりするんじゃなく、取材を受けるような形の方がいいのかもなぁとは思ってはいたんです。そんなときに、アルファノートさんが"レコーディング"っていう状況に絞って話を持ってきてくださったんで、それだったら、僕の音楽活動のすべてではないけど、僕自身の何かが伝わって、何かのヒントになってくれればいいかなって。タイミング的に合ったこともあって、今回こういう形でお世話になったんですけどね。

─なるほど。今おっしゃった「能動的に解説するのではなく、取材を受けるような形で」という表現が、まさに佐野さんの姿勢を表していると思うのは、DVDの中でも、一緒に音楽を創り上げている人を尊重して、自分以外の人が、意見なり音なりで入り込む"余地"を、佐野さんの側で必ず残していると感じるからなんです。それはDVDのトーク場面で、形式を嫌うフリー・フォームのジャズと、ルーツ・ミュージックの様式美の両方に身を置く中で「自由っていうのは壊すだけじゃない」という話にも通じると思うんですね。

佐野 そうなんですよね。僕自身、キャリアのスタートがジャズ系の方々とのセッションからで、当時はフリーっぽいセッションも多くて、フリーとはいえ、出来上がったもの自体はグチャグチャな音楽ではなくて、"インスタント・コンポーズ"なんです。お互いにしっかり即興で音楽を創っていくーーそれが僕の中では一番重要で、気持ち良くハマったときはすごく楽しかった。ただ、"フリー"っていうのが"フリー・スタイルというジャンルになっちゃってるのかな?"って思ったときがあって、そこから"自由"="本当に開放された演奏"って何だろう?とは考えるようになって、その答えというか、自由に演るってことのポイントとか、心の持ちようについては、やっと最近、考えがまとまってきたかなとは思います。つまり、様式美さえも1つの自由というか......例えば、ピアニストも88鍵という制約の中でやるからこそ自由があるという。そういう映画の台詞(『海の上のピアニスト(The Legend of 1900)』/98年)もあるじゃないですか。あの言葉がズーンとキたことがあって。だから、ドラム・セットという楽器的な制約の中にも僕は自由を見たし、音楽的にも、ブルースのセッションを通じていろんなことを教えてもらってわかりましたけど、ジャンルごとの様式って、地域はもちろん、それぞれ理由があって出来上がってきたわけで、その(ある意味での制約の)中に身を置くことの楽しさこそが自由ってことなのかなって思ったりはしますね。

─DVDの中でも「作品になるまでの、すべての意味でのドラム・サウンド」という発言がありました。つまり、自分の出す音には絶対責任は持つけど、そこには録る人や聴く人など、必ず"他の誰か"を想定している。その中に身を置いて、みんなで1つのものを創り上げることを楽しんでいる、そういう、自分からの一方通行の決めつけをしない"余地"が常にあるんだなと思ったわけです。

佐野 やっぱり現場ってチームワークじゃないですか。「初めまして」の人も含めて、集まったミュージシャン、エンジニアさん、呼んでくれたディレクターさん、そういう人達とのチームワークで、限られた時間の中、みんなで最善を尽くして創り上げたものが、1つ1つの作品になる、それが楽しいんですよね。ということは、自分1人がイメージしてるものだけでは絶対に成り立たなくなる。逆に言えば、だからこそ"化学反応"が起きる、それが楽しいって思うんですよね。

(続きはリズム&ドラム・マガジン2017年8月号にて!)


品種雑誌
仕様B5変形判 / 168ページ / DVD付き
発売日2017.06.24