• トップ
  • PICK UP
  • 「3000円で"できるドラマー"になれる! 超ドラム初心者本」著者・長野祐亮氏に聞く『超ドラム初心者本』制作の内側

PICK UP

  • リズム&ドラム・マガジン

2021.09.30

「3000円で"できるドラマー"になれる! 超ドラム初心者本」著者・長野祐亮氏に聞く『超ドラム初心者本』制作の内側

Interview & Text:Isao Nishimoto

リズム&ドラム・マガジン監修のもと、"究極のビギナー本"をコンセプトに作られた『3000円で"できるドラマー"になれる!超ドラム初心者本』は、初心者向け教則本としてハードルを下げつつ、中身の濃いコンテンツが盛りだくさん。これからドラムを始める人が気軽に取り組めて、ある程度叩けるようになってからも長くつき合える1冊になっている。ここでは、著者である長野祐亮氏へのインタビューを通して、『超ドラム初心者本』制作の内側に迫ってみた。

"フィルインって何ですか?"
そんな人にも伝わるように

そもそもこの本は、長野さんがずっとチャレンジしてみたかった企画だそうですね。

長野 やっぱり、"入口"って一番大事じゃないですか。僕は音楽教室でドラム講師も務めていますが、まったく叩いたことのない人が体験レッスンなどで初めてドラムに接するとき、これは楽しそうだ、長く続けられそうだっていうのがそこで決まるような気がするんです。第一印象で、自分でも叩けるんだと思ってもらえるどうかが勝負だと思っているので、そんな本を作れたらいいなと。

気軽にドラムを始めてもらえるような......

長野 本にも書きましたけど、僕がドラムを始めたのは、中学生のころ友達に誘われてバンドを組むときベースかドラムの2択で、安く始められるからドラムを選んだというのがあって。そういう間口の広さも伝えたかったですね。

初心者向けのドラム教則本は世の中にたくさん出ていますが、それらを見て、"もっとこうだったらいいのに"みたいな気持ちもあったのですか。

長野 それはあまりなかったです。ただ、レッスンで初心者の方から質問をされて、"あっ、こういうことに疑問を持つのか"とか、"こういうことがわからないんだな"というのが僕の中にけっこうあったので、そういうのを提示できたらいいなというのはありました。


『3000円で"できるドラマー"になれる!
超ドラム初心者本』
著:長野祐亮
(9月30日発売)

すでに叩けるようになった人は、初心者がどこでつまづくのかを忘れがちなところもありますね。

長野 ある生徒さんから、"教則本でフィルインという言葉が出てきた瞬間に萎えました"って言われたことがあって。僕らは普通に使っている言葉でも、それを知らない人にとってはわからないのが当たり前じゃないですか。僕自身そんなこともわからなくなっているんだなと、そういうときに気づかされるんです。今回の本でも、専門用語が出てくるところでは、まずその説明をするように気をつけました。

そういう説明を丁寧にしているためか、けっこう文字が多めなページもあります。

長野 なるべく文字は少なくしようと最初は思っていたんですけど、書いているうちに増えていったところはありますね。逆に、ドラム・セットの解説をしているページはカラー写真を大きく使って、メリハリのある構成にしました。あれは編集部の方からいただいたアイディアなんですけど、ちょっと図鑑っぽくて気に入っています。


本書Lesson3「まるっとわかるドラム・セットの構造」より。長野氏が言うように、"ちょっと図鑑っぽい"見せ方が特徴。この後、バス・ドラム、スネア・ドラム、タムタム......と各パーツの解説が続く。

本書連動のレッスン動画をまとめたYouTube再生リストはこちら!

Lesson11 4ビートと4分音符のフィルイン
https://youtube.com/playlist?list=PLaE_mWfFGOGycnxu90Zk9SuPIvt9xBVFp

Lesson12 8ビートと8分音符のフィルイン
https://youtube.com/playlist?list=PLaE_mWfFGOGytH-YqsUPuwHSmOZxJnVcK

Lesson13 8ビートと16分音符のフィルイン
https://youtube.com/playlist?list=PLaE_mWfFGOGyTRDLGhD4GtOLqszN4NSSz

Lesson14 16ビートと16分音符のフィルイン
https://youtube.com/playlist?list=PLaE_mWfFGOGz_YyOpWr46C5jSE1oaP147

Lesson15 ウラ拍を強調した8ビートと16分音符のフィルイン
https://youtube.com/playlist?list=PLaE_mWfFGOGyxFrkl8T4-6Zh_BkvHgJMl

数百円でも作れるDIYパッドで
どんどん練習してほしい

●楽器や奏法の解説から、練習する際のさまざまな工夫、そしてエクササイズまで、全方位的な内容になっているのも特徴だと思います。同じく長野さんの書いた『新・ドラマーのための全知識 新装版』を、初心者向けの内容に絞ってグラフィカルに構成したような印象です。

長野 叩くことだけじゃなく、いろんな知識も伝えたいなと思って、結果的にそうなりました。楽器を使わないリズム・トレーニングなども取り上げていて、確かに『全知識』と重なるところはありますね。

そんな中、本書ならではの項目の1つが、練習パッドを自作するページです。普通の教則本だと"市販の練習パッドにはこういう種類があって......"となるところですが、そういうのを一切省いて、DIYパッドにフォーカスしているのは画期的だと思いました。

長野 僕も最初はスティックを買って座布団などを叩いていたタイプでしたが、今はYouTubeとかを見ると、自作のパッドで練習している人がたくさんいます。あと、僕が以前出した教則本で、パッド練習に特化した『1日15分!自宅でドラム中毒』というのがあるのですが、ドラマー以外にもあの本を使って練習してくれる人が多かったんです。ギタリストだけど、ちょっとドラムもやってみたいとか。そういう人は練習パッドを買うのもハードルが高いかもしれないので、練習パッドを安く簡単に作る方法を紹介するのは良いなと思ったんです。

3000円で"できるドラマー"になる』という言葉の通り、スティックを含めて3000円以内に収まる材料費で、3種類のDIYパッドを紹介しています。

長野 スタンドにつけて本格的に叩くとなると、市販のパッドの方が良いのは明らかです。タッチはもちろん、見た目や耐久性もそうですね。でも、実際に作ってみて、DIYパッドも意外にイケるんだなと思いました。気軽に始める"入口"としては、けっこう優秀なんですよね。

本の後半で紹介しているエクササイズも、ほぼ半分はパッド練習用のフレーズになっていますから、読んだ人はぜひ実際に作ってみてもらいたいですね。

長野 そうですね。本当に数百円で作れちゃいますから。


本書Lesson2「"家練"に欠かせない練習パッドをDIY」より。安く簡単に手に入る材料を使った自作パッドの作り方を紹介しつつ、実際の叩き心地にも言及している。

何を伝えて、何を言わないか
そこはすごく悩みながら書いていました

ドラム・セットの解説ページは、先ほど話に出たように写真が大きく、文章による説明もコンパクトにまとめられていて、最低限知っておきたいことだけがしっかり伝わる内容だと感じます。

長野 普段のレッスンで、"これはスネア・ドラム、これはタム"って説明しても、いろいろな話の中で流れていってしまって、しばらくしてから"じゃあタム叩いて"と言うと"タムってどれでしたっけ?"となることがあるんです。みんな、意外に楽器のことを知らないんですよね。そういうこともしっかり伝えたかったし、ドラマーは自分の楽器を持っていない人も多いので、もっと楽器に興味を持ってほしいなという気持ちもありました。同じ理由で、"ドラム&シンバル・メーカーの基本情報"というコラムも書いています。

ドラムとシンバルの主なメーカーを俯瞰したあのコラムは、今まであまり読んだことのない切り口で面白いです。

長野 ありがとうございます。これも編集部の方と話していて、どんなメーカーがあるのか意外に知られていないというところから出てきたアイディアです。最終的にどういう内容に着地するかわからないまま書き進めていったのですが、けっこう楽しく書けて、出来上がってみたら面白いページになりました。僕が十代の頃は、楽器店でもらってきたカタログをずっと眺めたり、ノートにドラムの絵を描いたりして楽器やメーカーの知識を積み重ねていったものです。ドラムを始めたばかりの人はなかなか難しいのかもしれませんが、なるべく楽器店に行って店員さんと触れ合ってもらえると、もっとドラムのことが好きになるんじゃないかなと思います。

セッティングや叩き方に関する解説も、説明し始めると際限なく膨らんでいきそうなところを、大切な内容にフォーカスして丁寧に伝えている印象を受けます。

長野 初心者本を作る上で悩むところって、何を"言わない"かだったりするんですよね。もちろん伝えなきゃいけないことはたくさんあるんですけど、まず何を選んで伝えていくか。何を言わずに、今はこれを言ってあげるというのが大事だと思います。これは実技でも同じですね。

スティックの握り方についても、マッチド・グリップはこう、レギュラー・グリップはこう、と教科書的に説明して終わりではなく、いろいろな握り方があることを伝えた上で、やはり大切なポイントをしっかり示していると思います。

長野 ドラマーによっていろんな握り方があるし、僕自身、今でもグリップがどんどん変わっているので、どう伝えればいいのかすごく悩みました。極端に言うと、どう握ってもいいという側面もあるし......ドラムって全部そういうところがあると思うんです。その中でいくつかのやり方を提示しながら、まずはこれをやってみてほしいという伝え方をしています。


本書Lesson10「ドラム・セットの正しい叩き方」の、フット・ペダルの踏み方を解説したページ。単に奏法を説明するのではなく、演奏する上で重要なポイントをわかりやすく示す方法論は他のページでも徹底されている。

基礎を磨き上げることに終わりはない
その大切さを伝えたかった

楽器を使わずにリズム感を鍛えるドラムレス・トレーニングも紹介されています。

長野 ドラムのある場所で練習できる機会が少ない初心者も、ドラムのフレーズやカウントを口で歌うだけでトレーニングになるし、椅子に座って、手で太ももを叩くボディ・ドラミングでも、この本に載っているエクササイズの多くは練習できると思います。楽器がないから練習できなくてつまらない......じゃなくて、何でも叩いて練習できちゃうのがドラムの良いところだと思うので、楽しく練習してほしいです。

あと面白いと思ったのが、練習時間の効果的な使い方を具体例で示したページです。基礎練5分、リズム・パターン5分、みたいな感じで。

長野 ある程度叩けるようになると、曲を演奏して楽しむ時間が増えて、ついつい基礎練を省いてしまう人も多いと思うんですけど、やっぱり基礎練は大事だし、曲を練習するのも大事だし、その間をつなぐフィルインとかの練習も大事。それらをバランス良く練習することで、上達の土台ができると思います。最初からそういうクセをつけてもらいたいと思って、このページを作りました。

本書の後半、エクササイズが並んだ実践編は、練習パッド編とドラム・セット編の両方が用意されていますが、いわゆる8ビートではなく4分音符を基本とするリズム・パターンから始まっているのが特徴です。

長野 8ビートも、その大元は4分音符ですからね。まずは4分音符のビートに乗っていく感覚を掴むことが大事で、それがしっかりしていれば、細かく分かれていっても幹はブレない。細かい音符を叩くことに一生懸命になりすぎると、大元を見失ってしまいますから。

実践編の最初のエクササイズで、ダウン・ストロークを解説しています。これも教科書的に考えると、ダウン/アップ/フル/タップという4つのストロークを紹介したくなるところですが、あくまでもエクササイズに必要な動きとしてダウン・ストロークに触れているところが親切だと思いました。

長野 スネアのバック・ビートは特にそうですけど、叩いたあとに低いポジションで止める感覚を掴んでおかないと、うまく叩けないですよね。それを、ゆっくりのテンポで4分音符を叩く段階で身につけてもらうのが最初のエクササイズです。

ドラマーなら無意識のうちにできてしまうダウン・ストロークの動きも、初めて叩く人は戸惑うことが多いようです。

長野 そうなんですよね。ダウン・ストロークをちゃんと止めるのって、実はすごく難しいし、その止めたスティックをいかに引き上げるかというのが本当に大事なことで。そこを最初に伝えたいと思いました。

●その実践編は4分音符→8分音符→16分音符とだんだん細かくなっていって、それぞれがBasic(初級)/Intermediate(中級)/Advanced(上級)/曲に合わせて叩く、というステップ・アップ式のエクササイズで構成されています。基礎中の基礎から始まって、初心者向けとしては少し高めのレベルにも踏み込んでいると感じました。

長野 移動が絡むフレーズなどはそうかもしれませんね。縦横の移動がランダムに入っていたりして、意外に難しい。

だからこそ、長くつき合える本だと思いました。ある程度叩けるようになったらもう見なくなるのではなく。

長野 そういうふうに使っていただけるとうれしいですね。それは、けっこう先のレベルまで進めるという意味だけじゃなくて、本当の基礎の基礎であっても、ずっと磨きをかけなきゃいけない大事な部分だと思うんです。僕も毎日4分音符と8分音符を練習していますし、16分音符を"タタタン、タタタン"って叩けるよという人も、突き詰めていくといろんな表現の仕方があるわけで、そこにはやっぱり終わりがない。いつまでも磨きをかけるべきフレーズが、この本にはたくさん載っていると思います。

そういう意味では、もう初心者ではない人もこの本のターゲットになりますね。好きな曲のコピーから始めて、それなりに叩けるつもりになっていて、基礎の大切さは分かっているけれど、いきなり緻密なメカニカル・トレーニングに向き合うのはちょっと......というような人は特に、この本が役立つのではないかと思います。

長野 ありがとうございます。


Lesson11以降が"実践編"。画像はLesson12「8ビートと8分音符のフィルイン」の冒頭ページで、この章で学ぶポイント、代表曲、基本的な手順&足順が示される。この後、YouTube動画に対応したステップ・アップ式のエクササイズが続く。

動画と誌面の組み合わせだからこそ
伝えられるものがあると信じて

●さらに、実践編のエクササイズはYouTubeに対応していて、模範演奏を動画で見ることができますが、叩く上でのコツやアドバイスは動画でなく誌面で説明しているのが、YouTubeに溢れているドラム・レッスン動画とは違うところです。長野さん自身も、本誌10月号の『超ドラム初心者本』告知ページで、"文字だからこそ心に残るものがあるという思いを信じて取り組んだ"とコメントされています。

▼連動動画はこちら
https://www.youtube.com/c/RhythmDrumsJP

長野 "これって、あそこに書いてあったよな"みたいな感じで、記憶のどこかに紐づくようなところが文字にはあると思うんです。そこでまた誌面を見返したりできるのも、動画とは違う本の魅力だと思います。解説文の中には、実際のレッスンで生徒さんがつまづいたり疑問を持ったりしたことに対するアドバイスを散りばめました。最後の最後に、"そういえばこんなこともあったな"と思い出して文章を足したりもしたので、ずいぶんご苦労をおかけしてしまいました(笑)。

●動画や誌面写真で使っているSAKAE OSAKA HERITAGEのドラム・セット(Evolved)は、長野さんが新しく手に入れたものだそうですね。

長野 はい。まだライヴで1回使ったくらいで、あとはスタジオに持ち込んで叩いてみたのと、この本の撮影で使っただけです。しばらくヴィンテージのセットばかり使ってきたので、箱に入った新品のドラムが届いたときはワクワクしました。僕が追い求めているドラマーのイメージに近い、低域が豊かで迫力のある音が出ます。"ドラムっていいなぁ"とあらためて思いました。ちなみに、ドラム・セットの動画はヤマハEAD10を使ったシンプルなセッティングで撮影しています。

そして、最終章として用意された"脱ビギナーのためのコンテンツ"が、この本の奥行きをさらに深くしています。

長野 実践編では触れていなくても、例えばシンコペーションなどのように、曲を演奏するときどうしても必要になってくることについて解説しています。ルーディメンツのページは文字が多くなりましたが、"こういうのがあるんだな"ということを知識としてまずわかっていてほしいという気持ちで書きました。

最後に出てくる手足のコンビネーション・フィルも、初心者は一見難しく感じると思いますが、実はそれほど大変ではなくて、しかもプレイの引き出しを一気に増やしてくれます。

長野 足が入るとフレーズがカッコ良くなるというのは、僕自身が初心者の頃に思っていたことなんです。音符としては8分音符とか16分音符を使ったフレーズなので、ゆっくりやればビギナーでも叩けると思います。あとはそれを少しずつ速くしていけばいいだけですから。

全体として、ハードルは低いですが中身の濃い本になりましたね。繰り返しになりますが、初心者だけでなく幅広い読者に届くことを願っています。

長野 ありがとうございます。昔に比べると、教則本のニーズは変わってきていると思いますが、1人でも多くの人に手に取っていただけたらうれしいです。

最終章「"脱ビギナー"のためのコンテンツ」より。8分音符&16分音符の基礎練バリエーションから、3連符&シャッフル、ハイハットのオープン/クローズ、シェイク、シンコペーション、ルーディメンツ、手足のコンビネーション・フィルと内容たっぷり。実践編と同じく、著者のレッスン経験に基づいた解説文が練習の頼もしい味方になってくれる。


撮影:佐藤哲郎

長野祐亮(ながの・ゆうすけ):東京都出身。15歳からドラムを始め、つのだ☆ひろ、そうる透に師事。大学在学中にプロ活動をスタートし、数々のレコーディングやアーティストのサポートで活躍する。現在はそうした音楽活動と並行し、インストラクターやリズム&ドラム・マガジンなどへの執筆活動を通して後進の指導も積極的に行っている。著書に『1日15分!自宅でドラム中毒』、『ドラム・パターン大辞典326』、『新・ドラマーのための全知識』、『リズム感が良くなる『体内メトロノーム』トレーニング』、『みんなで楽しむ手拍子リズムトレーニング』などがある。