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2020.04.01

リズム&ドラム・マガジン

芳垣安洋が語る el tempoの"リズム・アンサンブル"について

Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine

リズム&ドラム・マガジン20年5月号の表紙を飾る、シシド・カフカ主宰アルゼンチン発のリズム・イベント=el tempo(エル・テンポ)。本誌では、サンティアゴ・バスケスとの出会い、彼の音楽ルーツ、el tempoのハンドサインについて、メンバーの1人であり彼と古くから親交のある芳垣安洋が語るコラム「サンティアゴ・バスケスとハンドサインを巡る音楽背景」を掲載(2020年5月号/19ページ)。ここでは、その続きである「el tempoのリズム・アンサンブルについて」をインタビュー形式で続載! 本誌と併せて読めば、さらなるリズムの深みを感じることができるはず。

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サンティアゴのルーツから形成された
el tempoのリズム・アンサンブル

●サンティアゴ・バスケスが重要視している、リズム・アンサンブルのポイントとは、ずばり何なのでしょうか?

○僕らが最初に受けたサンティアゴのレクチャーで彼が何回も言っていたのは、"リズムの組み立て方の概念"なんです。それはハミロ・ムソット(※1)のレクチャーから、サンティアゴ自身が着想を得ていて、そもそもハミロは、キューバやブラジル音楽にある"クラーベ"をリズムの概念の根本に置いていて、そのクラーベで使われる3-2(スリー・ツー)というリズムの組み立て方を参考にしているようです。例えば、3(スリー)のように、次の拍や小節のアタマに向かって"転がっていくようなリズム"と、そうではなく、2(ツー)の部分にあたる"ステイするリズム"。その両方のリズムが、キューバやブラジル音楽におけるでは必ず交互に出てきて2小節で一つの塊になります。彼はこのキューバやブラジル音楽でいうクラーベの概念をさらに拡大して、2小節だけでなく、さらに2-3や3-2だけに限定せずに(例えば3-3-2、2-3-3-2などのように)リズムの骨組みを考えていくことが必要だと言っていました。もちろんクラーベのことだけ考えてリズムを作るというわけにはいかないこともあるけれども、演奏者それぞれがこういったことをよく考えてリズムを組み立てていかなきゃいけない、というような趣旨をサンティアゴは話していましたね。まずはクラーベから考えること、ここで彼が言うクラーベはキューバ音楽のそれではなくて、「鍵」という意味の言葉です。そして「"リズムの最小単位"を作りなさい」っていうことを話していて、そういう意味でクラーベでは、in 2(イン・ツー)のノリでリズムを取ったときに、1小節の中で次へ転がっていくタイプのものと、ステイするものを組み合わせていくことが望まれたりもします。例えば、2(ツー)だけでリズムを取るのも、それはそれでありなんだけど、そうすると次のリズムへつながっていくものを他の人が作りにくかったりすることもあるんですよ。だからコンダクター(指揮者)から、次の展開につながるリズム、つまり3(スリー)にあたるものを演奏するように合図を出されることもあったりします。そうするとその人は、そういったアイディアを出して、他の人に次の展開を想起させる。

●なるほど。

○これはすごく大切なことなんだけど、非常に難しいですね。今のel tempoは、パフォーマンスによるエンターテインメントとしてみんなを盛り上げるっていうところも大事にしていると思うけど、アンサンブルにおけるリズムの組み立て方の根本にも、みんなが焦点を当てていけたらより良くなっていっくと思います。サンティアゴの場合は、そういうクラーベの話とか、リズムを作るときの"次に転がっていくリズム"と"ステイするリズム"の組み合わせによって、その形がいろんなふうに変わっていくことをテーマにしているんです。

●他にもリズムのニュアンスなどの考え方とかあるんでしょうか?

○これはステイと転がるとはちょっと違う話で訛りのことなんだけど。サンティアゴなりに考えたリズムの"訛り方"っていうのがあって......例えば、"タッタカ・タッタカ"っていうのも、16分音符で"タスタタ・タスタタ"となり、今度は3連符のようになって"ダダダ・ダダダ"に変化していく。"ダダダ・ダダダ〜タッタカ・タッタカ〜タスタタ・タスタタ〜ダダダ・ダダダ......"といった調子で訛り方が変わっていって、実はその度合いを調整するサインもあって。なかなかみんなで実践していくのが難しい部分でもあるんだけど......音符通りにリズムを刻むことなら僕らもできるけど、訛り方やアクセントをみんなで意識していくのは簡単ではないですね。例えば、アフリカのタイコで刻むようなリズムだと"ダダダダ・ダダダダ〜(アタマにアクセント)"っていうのも、"ダダスダダス・ダダスタタ〜"とか、8分/5連/3連の中間くらいで訛っていくわけ。サンティアゴはそういう表現の変え方も実践したいみたいです。

リズムの"訛り方と音程感"
ドラマーのリズムの向き合い方への課題

●el tempoでもリズムの"訛りの変化"でアンサンブルしていくことは多いのでしょうか。

○今後の公演ではそういうところも意識したら面白いでしょうね。僕も含めて、今回はドラマーもメンバーとして複数人が参加していて、ドラムという立ち位置じゃないところで何かを表現して、楽しんで、打楽器を用いたアンサンブルがうまく機能していくこととか、シシドさんがel tempoを始めたことで、刺激を受けて自分もやりたいっていう人が増えていけば非常に面白いことではあるけど。ドラマーはいつもはバンドで一人だけということも多く、普段そういうことをあまりやらないじゃない? ただやっぱり、ドラマーは基本的にすでにあるリズム・システムの中でパターンを作っていく人が多いと思うんです。それはもちろん大切なことなんだけど、例えばすごく大雑把に言うと、両手で叩いていたリズムを、片手の音だけ叩くことが苦手な人もいるわけ。両手で関係性を確かめながら叩かないといけなかったり。でも本当は、リズムを感じるっていうことはそうじゃなくて......ということも含めて、いわゆる打楽器奏者として、パーカッショニストもドラマーも同じような感覚でそれが捉えられると、非常に面白いと思う。

●ドラム・フレーズのシステムやテンプレートを一度覚えてしまうと、難しいことでもありますよね。

○相当難しい。例えば、5連符の中で、ある指定された音符だけを叩けっていうサインが出たときに、(ドラマーに限らず)空打ちしながら両手で叩かないとできないリズムの形もあるんだよね(笑)。まぁそれはもちろん仕方ないことなんだけどね。ただ、さっき話したリズムのニュアンスまで感じ取れるようになっていくと、相当深いところまでできるようになる。だから、サンティアゴはカウントしながら3連を5つ割り/7つ割りにしていったりできるんだけど、僕自身も"昔そういえばこういう練習したよな。もういっぺんちょっとやり直さないとな"と思いましたね。そういう意味でもel tempoは面白い刺激になっています。

●なるほど。

○さらに難しいのは、楽器によっては高い音のパートしか叩いちゃいけない、低いパート楽器もあったりして。さらには低音と高音を入れ替えたりとかいうサインもあって。サンティアゴは、ラ・グランデ(※2)というアンサンブルもやっていて、そのときなんかはアンサンブルで打楽器以外にギターやベース、鍵盤楽器や管楽器、ボイスやまでも使うときがあるんだけど、彼は幼い頃からピアノをやっていたこともあって、すごく音感が良いわけ。音程とリズム全部把握できるから、打点と音程も含めて、そこでちゃんとしたメロディが鳴ってる。それを入れ替えたら入れ替えたでどういう状態になるのかが瞬時にパッとわかる......まぁああいうことも、もう20年くらい考えてやってきたからできることだと思うんだけど。だから、ドラマーがフレーズを作るときも、本当はスネア・ドラム、タム、キックの音程とリズムを使ったり、そこから聴こえるものの違いっていうのを考えるところまでコントロールできると一番いいと思うんだけど。そういうことを彼は常にやってきてるから、レクチャーや言葉の端々からそういった考えが伝わってくるし、それはすごいことだなと思う。パーカッションに例えると、特にジェンベなんかは音の高低差がはっきりしている楽器だから、フレーズや音程をいろいろ交換してみて、メロディの関係性を感じるには、すごく向いてる楽器かなと思う。ドラムを叩くっていうところからスタートすると、そこから自由になれなかったりする。もちろん、そんなことどうでもいいんだよ、必要ないんだよっていう人も中にはいると思う。このドラム・セッティングで、これだけ速く動けて、これだけのフレーズが叩けたらそれでいいという人もいると思う。だけど、どれだけメロディが表現できるかということも打楽器を叩く上で必要なことだと、これを機にあらためて思わされて。

●そういったメロディやリズムのコントロールは、経験値をあげるしかないのでしょうか。

○繰り返していくしかないですよね。僕自身が今までやってきた作業を振り返ると、譜面にしてみたり、言葉で覚えてみたり、理論的に習得しようとすることもあるんだけど、そうではなく、音を聴いて観念的にパッとイメージして叩いてみたら表現できたという瞬間もあったりするので。そういうことを何度も経験して、道が拓けることももちろんあるし、何かでストンといく瞬間って絶対あるから。もちろん何回も繰り返していく中で、何も考えないでいつの間にかできることもあるだろうし、うまくその次元まで辿り着くには、ずっとやっていく中で見つけていくしかないんだろうけどね。僕自身、演奏するたびに、"何でまだこんなことを叩いているんだろう"って、ずっとそれの繰り返しだもんね(笑)。

※1:アルゼンチン生まれのパーカッショニスト。詳しくは本誌(2020年5月号/19ページ)参照。
※2:打楽器アンサンブルに音階楽器が加わった、リズム・イベントの形態。

本誌では他にも、シシド・カフカへのインタビューから、el tempoのメンバーが語るリズム・アンサンブルの魅力、ハンドサインの解説など、全ドラマー/パーカッショニストが楽しめるコンテンツをお届けしていく。詳しくは、3月25日(水)発売の「リズム&ドラム・マガジン」2020年5月号をチェック!

▼「リズム&ドラム・マガジン 2020年5月号」コンテンツ内容
https://www.rittor-music.co.jp/magazine/detail/3119119012/

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