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2018.04.27

サウンド&レコーディング・マガジン

小袋成彬のメジャー・デビュー作『分離派の夏』の制作とTokyo Recordingsに迫る|サウンド&レコーディング・マガジン2018年6月号より

Text by Kentaro Shinozaki Photo by Hiroki Obara

自分の中にある訳の分からない部分を
クリアにしていく作業がアルバム作りでした

日本の音楽シーンの新たなフェーズを感じさせるアーティストに出会った。皆さんにもぜひ注目していただきたいという思いから、今回の表紙&巻頭インタビューでは26歳のシンガー/クリエイター、小袋成彬(おぶくろなりあき)に焦点を当てる。その歌声と才能を宇多田ヒカルに発掘され、2016年『Fantôme』収録の「ともだち with 小袋成彬」に客演、そして今回、宇多田プロデュースによってメジャー・デビュー・アルバム『分離派の夏』をリリースした彼。真っ白なキャンパスに自らの言葉を並べていき、音楽作品でありながらアルバムを聴き終えたときには一冊の物語を読み終えたような不思議な清涼感。強引にジャンル分けするならばR&Bになるのだろうが、アンビエントからベース・ミュージックやロックまで彼の豊富なバッググラウンドを感じさせ、とりわけ音数を絞ったオケと自身の多重録音によるコーラス・ワークは非常に美しい。小袋本人、レコーディング/ミックスを手掛けたエンジニアの小森雅仁氏、そして小袋とともにTokyo Recordingsを運営し、本作でもストリングス/ホーン・アレンジなどで参加したYaffleの3人に登場してもらうべく、小袋とYaffleの拠点=Aoyama Basementを訪れた。

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高校の校歌を歌っているとき自分の歌声に自信を持った

ー小袋さんはシンガーのイメージが強いですが、録音やプログラミングも自身で行っているわけですよね?

小袋 2011年にAPPLE MacとLogic、それからFOCUSRITEの2イン/2アウトのオーディオI/OとAUDIO-TECHNICA AT2020を買ったんです。友達にDAWで音楽を作っている人がいて、自分もちょっとやってみたいなと。渋谷のイケベ楽器に一式買いに行ったのを覚えています。

ー当時はどんな音楽を志向していたのですか?

小袋 自分の方からやりたい音楽というのは無くて、友達が作った曲に歌を乗せることが多かったんです。だから当時はMIDI打ち込みはほとんどしませんでした。

ーヒップホップで言えばラッパー的な立ち位置ですね。

小袋 そんな感じです。歌うのが好きで。

ーAUDIO-TECHNICAのマイクを選んだ理由は?

小袋 とにかく安かったので、音響的なことは一切考えずに買いました。コンデンサー・マイクなので、ダイアフラムに息が直接かかると"ボッ"というノイズが入っちゃうんですよね。だからティッシュでポップ・フィルターみたいなものを作ったりしました。あと、Logicにはボーカル録り用のトラック・プリセットが用意されているので、同じ歌を2トラック作って、一つは"Male Rapper Vocals"、もう一つは"Ambient Vocals"をかけて、それを7:3で混ぜると自分の声が生きるということも分かって。

ー当時はライブもやっていたのですか?

小袋 本格的にライブを始めたのは、國本(怜)君とのN.O.R.K.っていうユニットですね。そのときも國本君がトラックを作って、僕が歌うという形でした。歌しか取り柄が無かったので。

Yaffle 高校のときに校歌を歌って気付いたんだよね。

小袋 そうなんです。僕は野球部だったんですけど、グラウンドで大きな声で校歌を歌うという伝統があって、そのときに"自分の歌、結構イケるな"と思ったんです。

ーN.O.R.K.を結成したのはいつごろ?

小袋 学生時代の最後ぐらいですね。

ー既にそのとき、音楽で生計を立てていこうと決意していたのですか?

小袋 そういう気持ちは無かったです。趣味の延長というか音楽がとにかく楽しかったんです。で、N.O.R.K.を終えたころにYaffleと出会ってTokyo Recordingsを始め、作曲/編曲/プロデュースの仕事をするようになりました。当時の僕は編曲の経験が少なかったので、一緒に仕事をしながら彼のやり方を学んでいって。Tokyo Recordingsをちゃんと組織化したのは2014年の夏くらいでした。

ーそのころからこのAoyama Basementで作業を?

小袋 そうです。昼夜問わず音を出せる環境なので、ここに入り浸って曲を作っています。

ー仕事は小袋さんが作曲、Yaffleさんが編曲担当?小袋 いえ、そういうわけではなくて場合によっていろいろです。彼が100%作曲することもあります。

Yaffle コライトみたいな感じです。

ー作家仕事をやっていると引き出しが増えますよね。

小袋 そう、その経験は大きいと思います。レゲエ以外の曲は一通り作ったと思います。ただ、ドストライクなJポップは意外とやってないんですよ。そういう音楽が作れないというだけなんですけど。

ー現在もTokyo Recordingsの活動は続けているわけですよね?

小袋 もちろんです。音楽を作るだけじゃなくて、営業や打ち合わせもやっています。まあ営業と言っても、ライブ・ハウスに遊びに行っていろんな人と交流を深めたりすることなんですが、それが仕事につながったりするんですよね。

ー宇多田さんとはどんなきっかけで知り合ったのですか?

小袋 当時、柴咲コウさんの『続こううたう』(2016年)に編曲で参加することになって、"俺たちもここまで来たか"なんて話をしていたんですけど、そんなときにヒカルさんのディレクターである沖田(英宣)さんから突然メールが来たんですよ。ヒカルさんのアルバムで第三者の声を入れたいということになったらしくて、ちょうど沖田さんがN.O.R.K.のことを知っていて僕に連絡をくれたんです。

ーそれが『Fantôme』収録の「ともだち with 小袋成彬」ですね。

小袋 なので、ヒカルさんが最初から僕のことを知っていたわけじゃなくて、沖田さんがヒカルさんに僕の音源を聴かせて参加してもらおうって話になったらしいです。

ー世の中、何が起こるか分からないですね。

小袋 さすがに最初はスパム・メールかと思いました。ただ、今までも自分たちの仕事が増えていくことに驚かされていたので、"次はこう来たか!"という期待感の方が大きかったですね。

ロック・バンドのように音で埋めるのではなく逆に抜いていくスタイルにしたいと思った

ーメジャー・デビューとなる本作は、宇多田さんがプロデュースを手掛けていますが、方向性などの打ち合わせをしてから作業に取り掛かったのでしょうか?

小袋 全く無いです。僕自身、"こういうアルバムを作りたい"というビジョンは無かったんです。今まで作りためた曲を拾い集めて、それがアルバムになるんだろうなという。

ー制作期間はどのくらい?

小袋 長かったです。最初に作った曲から数えると2~3年くらいでしょうか。

ーアルバムのリリースが決定する前から録りためていた?

小袋 そうです。もちろん、アルバムに収録するにあたって録り直しはしています。最初はヒカルさんがプロデュースすること決まってなかったですし、極めて個人的に勝手に作った曲ばかりです。

ー結果的に『分離派の夏』というアルバムになりましたが、曲をまとめている段階でコンセプトのようなものが見えてきてこのタイトルにしたのですか?

小袋 いえ、タイトルは以前から僕が感じていることで、"自分が社会に溶け込んでいるようだけど何かおかしい"という、何とも言えない違和感を明らかにしなきゃいけないというか、その感情を読み解く作業を曲作りという形を通してひたすらしていたんです。自分の中にあるまどろみみたいな、訳が分からないものをクリアにしていく作業をひたすらしていたという感じです。

ー具体的に"こういうサウンドにしたい"というビジョンは無かったですか?

小袋 それも無かったです。もちろん僕はいろんな音楽に影響を受けていますし、ここ最近はクラシックをやたら聴くようになって、良さが何となく分かってきた。なので、アルバムのストリングス・ワークはその影響を受けていると思います。幸いYaffleはクラシックを通っている人間なので、そういう要素は彼が入れてくれました。僕が"コラールっぽくしたい"とかリクエストすると、正しい文脈にのっとって形にしてくれたんです。

ー小袋さんのバックグラウンドには現代音楽があると勝手に想像していたのですが、そうではない?

小袋 全然そうではないですね。結構雑食で、アイアン・メイデンが好きだったり、JUDY AND MARYをメチャクチャ聴いていた時期もあったりして。

ーソウルやR&Bも好きなんですよね?

小袋 よく言われるんですが、大好きってほどでもないんです。もちろんR&Bは聴きますが、自分の作品に取り入れようと意識したことは無いです。

ーアルバムの楽曲は重心を低くして、中域の音数を絞って歌をしっかり聴かせる作りになっていますね。

小袋 割とそう言われるんですが、実は音数は結構多いんですよ。

小森 ただし同時に鳴る音は少ないので、中域がすっきりした印象になるのかもしれないですね。ギターと弦とパッドが一緒に鳴るような部分はあまり無いですから。

小袋 ロック・バンドって全部を音で埋めていくスタイルが多くてちょっとゲンナリしちゃう部分もあって、逆に抜いてくスタイルにしようということは考えました。

ー音で塗りつぶすのではなく、音を置いていくというデザイン的なアプローチも感じられますが、そこは意図して?

小袋 切り張りをして"この音いいな"と思ったものをぶち込んでいくという点ではデザイン的だし、モジュールっぽい作りかもしれないです。

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年6月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号

900(本体833円+税)

品種雑誌
仕様B5変形判 / 244ページ
発売日2018.04.25

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