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2017.09.21

大野雄二に聞く映画音楽の制作手法|キーボード・マガジン2017年10月号AUTUMNより

Text by Tetsuji Oyama

国民的アニメと言っても過言ではない『ルパン三世』を知らない人が万が一いたとしても、「ルパン三世のテーマ」を聴いたことがない人はいないのではないだろうか。それほど親しまれているこの曲を手がけたのが大野雄二。スリリングなサウンドにワクワクし、この曲をキッカケにジャズを聴くようになったという人も少なくないだろう。ほかにも『犬神家の一族』『人間の証明』などの映画音楽や数多くのTVドラマ音楽やCM音楽を生み出している大野に、映画音楽制作の秘訣を聞いてみた。

"『犬神家の一族』のころは映写に合わせてオケを録っていた"

─最初に映画音楽を手がけられたのは『さらば夏の光よ』(1976年)ですか?

大野 そのへんは僕も詳しく覚えてないんだけど、どうなのかなぁ、大昔の話なので。でも僕の中では『犬神家の一族』(1976年)だと思うけどね。

─どういったキッカケで映画音楽を手がけるようになったんですか?

大野 僕は当時映画音楽をやったことはなかった。TVドラマしかやっていなかったんだ。『犬神家の一族』は角川さんの劇場用映画の1作目だから、昔から映画音楽をやっている人じゃつまらなくて、新人で誰かいないかと探していたんだろうね。

─最初は手探りで作っていった感じですか?

大野 いや、そんなことはなかったね。でもその時、"映画っちゅうものは......"ってやたらと言われたわけ。でも僕からするとTVドラマやってたし、TVも映画もそう変わらないと思ってたんだけどね。でも映画の人ってやたらと"TVとは違う"と言う。何か"TVごときに"みたいなところが
あって、実はちょっとムカッときていたね(笑)。

─実際にTVドラマと同じような作業だったんですか?

大野 全然同じだよ。1つだけ言えるのは、角川映画の1作目だし、予算が潤沢だったということ。それは嬉しかったよ。TVはその当時から予算が少なかったから、溜め録り的な作り方が多かった。溜め録りというのは、いろんなシーンに合うようにたくさん曲を作っておくという方法。"ここの画に会わせて何10秒の音楽を作ってくれ"という具合に、きっちりと音を付けるのは当時NHKだけだったね。でも僕はCMをやってたから時間に合わせて曲を作るというのはむしろ得意だった。時間に合わせなきゃならないから大変ということもなかったし、映画だから特別ということもなかったね。

─どういった部分から作り始めたんですか?

大野 『犬神家の一族』は特殊だったと思う。角川さんは出版社でしたから、そのころのキャッチ・フレーズは"読んでから見るか、見てから読むか"だったんだよ。三位一体と言って、"読む、見る、聴く"を一緒にしようというので、映画の封切に合わせてサントラも出しちゃう。だからけっこう早めにレコーディングをしたんだけど、監督の市川(崑)さんが"こんなのイヤだ"と言って映画ではあまり使われてないものもあって(笑)。

─映画では別に作り直したんですか?

大野 映画の中で使う劇伴は、全部その場で録り直すんだ。あのころは映写に合わせて録っていたので、映写機のあるスタジオじゃないと録れないわけ。

─映像に合わせて演奏するんですか?

大野 何10秒でアクションが起こるとか、全部画に合わせてる。だから3、2、1というカウント・リーダーが出てからフィルムを映写すると、専門の棒振りの人がいて、それと同時にオケを録るんだ。監督が後ろで見ていてね。でも、サントラ・レコードはそうじゃなくて、『犬神家の一族』の、僕のイメージ・アルバムなんです。テーマ音楽だけは画に合わせて作ってるんだけど、レコードは監督の指示で作っていない分、もっと音楽的に作れる。もちろんとんでもなく映画とかけ離れたものじゃないけど。

─今では違うやり方なんですか?

大野 フィルム自体今では使っていませんから。というより今では映写できるスタジオがないんじゃないかな。映写ってね、映写技師がいないとできなかったの。フィルムはセルロイドだから燃えちゃうと危ない。だからちゃんと資格を持った映写技師がいた。それにフィルムって一度かけると巻き戻さなきゃならないし、巻き戻すにはけっこう時間がかかるので、長いときは1曲録るのに1時間ぐらいかかるんだ。ちょっと画に合わないということになると、巻き戻してから録り直すことになる。だから『犬神家の一族』は12時間以上かけて録ったんじゃないかな。

(続きはキーボード・マガジン 2017年10月号 AUTUMNにて!)


キーボード・マガジン 2017年10月号 AUTUMN

品種雑誌
仕様A4変形判 / 180ページ / CD付き
発売日2017.09.08