ウェルカム!ビートルズ

1966年の武道館公演を実現させたビジネスマンたち

佐藤 剛(著)

定価2,200円 (本体2,000円+税10%)
発売日2018.03.12
品種書籍
仕様四六判 / 416ページ
ISBN9784845632077

内容

ビートルズ来日をめぐる人間ドラマを
丹念に描く感動のノンフィクション。

1966年のビートルズ来日公演、それは彼らがライブ活動を停止する直前のことであり、まさに最初で最後のチャンスだった。数々の障害を乗り越えて奇跡のイベントを成功させた陰には、さまざまなビジネスマンたちが関わっていた。その中心にいたのがビートルズのレコードの発売元、東芝音楽工業の実質的な経営者だった石坂範一郎という人物である。東芝の社長と経団連の会長を務めて、"財界総理"と呼ばれた戦後最大の財界人、石坂泰三の肝煎りで設立された東芝のレコード部門は1960年に東芝音楽工業として独立し、範一郎はその運営を任されてレコード会社を大きく成長させていく。泰三の縁戚にあたる範一郎は「ビートルズのレコードを売ったディレクター」として知られる洋楽マン、石坂敬一の父親でもある。

1963年6月、東アジアの島国から坂本九の「Sukiyaki(上を向いて歩こう)」がアメリカに上陸、全米No.1に輝いて世界中でヒットしたが、これは範一郎の仕事であった。まもなく範一郎は、イギリスで大旋風を巻き起こしていたビートルズの日本発売を決めて、見事にヒットへと導いた。そして、ビートルズの招聘を計画することになる。

来日公演の実現に向けて動き出した範一郎はイギリスのEMI、およびビートルズのマネージメント会社のNEMSと交渉を重ねた。そのために雑誌『ミュージック・ライフ』をサポートし、泰三の助力を仰ぎ、読売グループの総帥である正力松太郎まで担ぎ出している。範一郎は一連の交渉状況をまったく表に出さず、秘密裏に進めていった。そして協同企画エージェンシーの永島達司へと、最終的な実行役を引き渡したのだった。

著者の佐藤剛は音楽ビジネスの視点から、ベールに隠されていたその実現過程を丹念な取材で掘り起こす。ビートルズのマネージャーのブライアン・エプスタイン、広報担当のトニー・バーロウ、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、キャピトルのA&Rだったデイブ・デクスター・ジュニア、担当ディレクターの高嶋弘之、『ミュージック・ライフ』の草野昌一と星加ルミ子、そして永島達司、正力松太郎、石坂泰三など多様な登場人物の動きが生き生きと描写されて、壮大な人間ドラマが浮かび上がってくる。

これは戦後の日本における経済復興の象徴だったリーディング・カンパニー、東京芝浦電気の中の小さな事業部として生まれた東芝レコードにまつわる、音楽とビジネス、そして少年少女たちの夢をめぐる物語である。明治生まれの教養人で目立つことを嫌った「サムライ」のような紳士たちによって、日本の音楽史にビッグバンが起こるまでのドキュメント。

【目次】

第1部  ビートルズ登場の衝撃

第1章  突然変異のように誕生したファブ・フォー
第2章  成長に不可欠だったジョージ・マーティン
第3章  ビートルマニアの誕生
第4章  ビートルズを聴いて素直に反応した少年少女たち
第5章  奇異な現象としてしか受け止められなかった大人たち
第6章  来日公演が報じられてから起こったマスコミ狂想曲
第7章  東芝音楽工業を率いたミュージックマン
第8章  フォロワーとしてのザ・フォーク・クルセダーズ
第9章  夢を現実にするエグゼクティブ・プロデューサー


第2部  レコード産業へ進出した名門の東芝

第1章  石坂泰三というカリスマ経営者
第2章  グラモフォーン建設部の立ち上げ
第3章  邦楽制作に乗り出した東芝レコード
第4章  東芝レコードの礎となった「黒い花びら」
第5章  新しいムーブメントの先導役
第6章  原盤制作のアウトソーシング化
第7章  大企業病
第8章  何度も繰り返される〝東芝の悲劇〟
第9章  苦境のさなかにあって新たな一歩を踏み出す勇気


第3部  招聘計画

第1章  最初の金字塔
第2章  再起にかける東芝音楽工業の素早い判断
第3章  軌道に乗った東芝音楽工業の再建計画
第4章  「大東芝」の迷惑顔
第5章  ノーと言えないお土産
第6章  星加ルミ子とビートルズの邂逅
第7章  MBE勲章
第8章  伝説のプロモーター
第9章  「ポピュラーは東芝」を地で行く快進撃
第10章  範一郎がロンドンで得た大きな確信


第4部 〝財界総理〞の力強い後押し

第1章  偏見に晒されるエレキブーム
第2章  及び腰になった東芝音楽工業
第3章  ラテン語会話の真相
第4章  来日を匂わすジョン・レノンの発言
第5章  大詰めの時
第6章  高嶋弘之のヨーロッパ出張
第7章  武道館の使用に大きな影響力を持つ人物
第8章  永島達司が受けた1本の電話
第9章  範一郎から託された夢の実現
第10章  あっけなかったロンドンでの直接交渉
第11章  読売グループとの結びつき
第12章  武道館使用をめぐる問題


第5部  使命を全うしたサムライたち

第1章  ビートルズ・ゴー・ホーム!
第2章  観客に届いていたビートルズの音楽
第3章  ブライアン・エプスタインはなぜ日本公演を行ったのか
第4章  東京ヒルトンホテルが選ばれた理由
第5章  さらなる訪問者
第6章  高嶋弘之の胸に去来した複雑な思い
第7章  『ミュージック・ライフ』だけに許可された内密の取材
第8章  紳士であり、サムライのような日本人
第9章  範一郎からのプレゼント
第10章  来日公演が残した大きな置き土産
最終章  最後まで裏方に徹して生きたミュージックマン

編集担当より一言

WEBサイト「エンタメステーション」で連載されていた『ビートルズの武道館公演を実現させた影の立役者たち』に大幅加筆し書籍化したものが本書です。当初、最小限の手直しで本になると思っていたのですが、進めていくにつれて著者の赤ペンを持つ手が乗ってきて、ほぼ全面改稿となりました。
ビートルズの来日をビジネス面からとらえたところがミソで、そこに関わった人々の物語が生き生きと動き出します。ビートルズの発売元だった東芝レコード、その親会社の東芝、そして読売新聞等々多くのビジネスマンがそれぞれの役割を果たし、高度経済成長を背景にして繰り広げられる人間ドラマは感動的で、思わず目頭が熱くなるほど。
ナイキの歴史を記した『シュー・ドッグ』がビジネス書のベストセラーになっていますが、本書も音楽に関わるビジネス書としても読めます。当時、新興のレコード会社だった東芝レコードがどうやってビートルズを売ったのか、どうやって大会社へのし上がったのか、音楽業界の発展の一歴史としても貴重な記録です。(野口広之/ギター・マガジン書籍編集部)