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2018.04.02

サウンド&レコーディング・マガジン

エド・シーランがミックスにトニー・マセラティを選んだ理由|サウンド&レコーディング・マガジン 2018年5月号より

Text by Paul Tingen, Translation by Takuto Kaneko

2011年のデビュー・アルバム『+(プラス)』が欧州や全米、日本でも大ヒットし一躍世界的人気を博した英国の天才シンガー・ソングライター、エド・シーラン。2014年の2ndアルバム『x(マルティプライ)』や2017年の3rdアルバム『÷(ディバイド)』でも大きな成功を収めた。ピュアで透き通った歌声と卓越したメロディ・センス、バラエティに富んだ楽曲は彼の大きな魅力だろう。そんな中、彼は昨年12月に「パーフェクト」(『÷(ディバイド)』収録)をビヨンセとデュエットした「パーフェクト・デュエット(ウィズ・ビヨンセ)」を発表した。豪華なコラボレーションも相まって、現在も大勢の人々を感動させているバラード・ソングの誕生である。この作品のサウンドを陰でサポートしているのがエンジニアのトニー・マセラティだ。ここでは本作品のミックスについて彼に話を聞いてみよう。

Tony-Maserati-PMC-7.jpgトニー・マセラティ

 世界はよりエド・シーランを必要としているし、逆もまたしかりである。彼の3枚目のアルバム『÷(ディバイド)』が2017年のほかのどのアルバムよりも売れ、ダウンロード/ストリーミング再生されたことがこれを裏付けている。それだけでなく、このアルバムは多数の大ヒットしたシングル曲も生み出した。モンスター級のヒットになった「シェイプ・オブ・ユー」を含む3曲はすべて2017年の前半にリリース。しばらく経った秋ごろに、4作目のシングル『パーフェクト』がリリースされた。こちらも世界各国でチャート1位を獲得する大成功を収めている。しかしながら世界もエドもこれだけでは満足しなかった。この「パーフェクト」は、さらに2つのバージョンが追加で制作されたのである。一つがビヨンセとのアコースティック・デュエットで、もう一つはイタリア人テノール歌手のアンドレア・ボチェッリとのオーケストラ・デュエットだ。どちらも2017年12月にリリースされている。このうちビヨンセとのデュエット版「パーフェクト・デュエット(ウィズ・ビヨンセ)」は特に成功を収め、多くの国々で再度チャートの上位にランクイン。これだけのヒットを記録した曲としては珍しく、このバージョンはエドとビヨンセのほかに数本のアコースティック・ギターとオルガンの伴奏のみというとてもシンプルな構成だ。それに加えて、ヒット作の常道からほんの少しだけ外れたミックス・エンジニアのチョイスもなされている。

Ed.jpgエド・シーラン


 今日のヒット曲はほとんどが少数のスター・エンジニアによってミックスされており、特に名前が挙がるのは、アメリカではサーバン・ゲネアとマニー・マロクイン、英国ではトム・エルムハーストとマーク"スパイク"ステントである。ステントは実際に『÷(ディバイド)』の全曲に加えて「パーフェクト」のアンドレア・ボチェッリ版のミックスも担当。しかしながらこの「パーフェクト・デュエット(ウィズ・ビヨンセ)」でエドが選んだのはトニー・マセラティだった。


 同業者からもミックスの権威と見られている彼は、これまでグラミー受賞歴並びに10回のノミネートを経験。またWAVESからリリースされている彼のシグネチャー・プラグイン・シリーズでも、広く名前を知られている。彼がこれまでにクレジットを残しているアーティストにはレディー・ガガ、ジェームス・ブラウン、マライア・キャリー、ジェニファー・ロペス、アリシア・キーズ、ビヨンセなどのそうそうたる面々が名を連ねる。


 トニー・マセラティがこの作品でミックスを担当するきっかけになった理由として、無駄がそぎ落とされたシンプルなアコースティック・アレンジ曲だということが挙げられる。繊細でより感情に深く訴えかけるようなイメージが最も重要だったのだ。ちょうどNYに滞在していたマセラティから、Skypeを通じてこの作品について話を聞くことができた。


 「このバージョンのレコーディングを担当したのはスチュワート・ホワイトでしたが、彼は実に素晴らしいラフ・ミックスを行ってくれましたね。私の役割はビヨンセのボーカル・サウンドをベストなものにし、より生き生きとした音にすることでした。まさに私は呼吸を作り出していたんです。実際、ビヨンセは息遣いを聴いているんですよ。これはつまり、フェーダー・ライディングをこまめに行うことが必要だということなんです。ミックスの際にはほとんどの時間をこれに費やしました。この曲では、歌のほかにオルガンとアコースティック・ギターが最初からずっと入っていて、しかも曲を通して一定のダイナミクスだったんです。私はすべてをフラットにするのではなく、オルガンもギターもボリュームに変化を付けるようにしていきました。あえて繰り返しますが、私が特に注意していたことは息遣いを生み出すこと。そして、すべてのパートにボーカルの感情に沿った動きを与えることでした。ボーカルが一息ついているときに代わりにオルガンやギターを上げてスペースを埋めたり、ボーカルがより繊細で感情に訴えかけようとしているところでは少し音量を下げたりしたんです。これがミックスの最中に私が主に行っていたことでした」

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年5月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年5月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 228ページ
発売日2018.3.24

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