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2018.02.27

中田ヤスタカが『Digital Native』で表現したかったのは"ポップじゃないけどキャッチーな曲"|サウンド&レコーディング・マガジン2018年4月号より

Text by Kentaro Shinozaki

漠然と音楽好きに聴いてほしいアルバム
"自分から音楽を探しに行く人"に楽しんでもらいたい

音楽クリエイター/プロデューサーとして走り続ける中田ヤスタカが、自身初となるオリジナル・ソロ・アルバム『Digital Native』を完成させた。「NANIMONO(feat. 米津玄師)」「Crazy Crazy(feat. Charli XCX & Kyary Pamyu Pamyu)」などの先行曲からも分かるように、アルバムの半数でボーカリストを招き、ダンス・ミュージックとポップスのすき間を縫うフューチャー系の仕上がり。細部まで作り込まれた楽曲からは実験性も垣間見えるが、難解極まるものではなく、あくまでリスナーの耳に響きやすい絶妙な形に落とし込まれている。2017年10月号でアルバム制作スタート、同12月号で途中経過をお伝えした本誌では、中田がどんな考えで最終的に作品を仕上げたのかを知るべく、3度目のインタビューを敢行。クリエイター諸兄は中田の言葉から何かヒントを見付けてもらえたら本望だ。なお本誌では、中田にゆかりのあるクリエイター/著名人たちにアンケート・コメントを依頼したので、そちらもお楽しみいただきたい。

自分にとっての不自然さや感覚外の部分を作るようにしている

ーCAPSULEなどこれまで中田さん自身のアルバムは短期間で仕上げることが多かったと思うのですが、2016年秋の「NANIMONO(feat. 米津玄師)」をはじめ、本作は1年以上前に発表した楽曲が収録されています。

中田 結果的にバラエティに富んだアルバムになりましたね。今までの感覚で言うと、ミニ・アルバム2枚分という感じです。「NANIMONO(feat. 米津玄師)」や「Crazy Crazy(feat. Charli XCX & Kyary Pamyu Pamyu)」など、割と初めの段階で作っていた曲があったおかげで救われたとも思います。そうしたシングル曲があったおかげでリスナーを突き放し過ぎない作品になった(笑)。

ーポップなアルバムにはしたくなかったのですか?

中田 ポップなものを作る意識はなくて、ただしキャッチーな曲にはしたかった。聴き終わった後にどこも覚えてないような曲は、作っていても楽しくないので。

ー確かに、中田さんの作る曲はメロディやシンセの音色など"どこか引っ掛かる部分"が必ず用意されていますよね。

中田 そう、"この曲はこれ"っていうものが何か無いとボヤけた感じになってしまう。それと、僕は常に自分の感覚以上のものに更新していかないと、"できた感"が無いんですよ。それは自分にとって新鮮という意味ですけどね。自分の手癖でただ作っていても出てこないものを探しています。そういうものができたらそれ以外の部品をバラして作り変えることもあるし、これ以上やっても何も残らないと思ったら曲を白紙に戻しますね。

ーそうした感覚外のアイディアが偶然わくのを待ちながら作業しているのでしょうか?

中田 そうです。自分にとって感覚外のきっかけを生み出すとなると時間がかかることもありますけど、楽しいと思っているので特に気にならないです。テンションが上がっているかどうかは大事。

新鮮味のあるルールを取り入れながら曲作りをしている

ー収録曲の半数はボーカリストを招いていますが、その曲に歌を入れるかどうかは作る前から決めているのですか?

中田 いや、このアルバムに関しては歌が入るかどうか分からない状態で作っています。とりあえず作っていきながら、声を入れたくなった曲にボーカルが入っています。

ーボーカリストに歌を入れてもらって、最終的にそれを使わなかったという曲もあったのですか?

中田 今回それは無かったですね。ただ、もらった素材を全部使っていない曲はありますし、逆にエディットでフレーズを増やした曲もあります。

ー例えば「NANIMONO(feat. 米津玄師)」では、米津さんの歌をカットアップしてサビを作っていますね。

中田 あの部分は作業しているうちにできたというか......予定されたデモのクオリティを上げたものが本チャンっていうやり方は、世の中の多くの人がやっているし、自分に合ってないというか。僕としては、曲の作業を進める中で思い付いたことを自由に選択できた方が音楽として自然だと思います。会議でデモを聴きながら"こういうものにしよう"と、みんなの共通認識でGOサインが出て作る現場も世の中多いと思いますが、それが制約になって後から生まれたアイディアがボツになってしまうことはあると思います。

ー新しいものを作るために、中田さんはルールを全く決めずに曲作りを始めるわけですか?

中田 僕もルールはある程度決めますよ。例えばテンポとかは決めますけど、あまりアプローチを決め過ぎると自由じゃなくなるというか、つまり、用途に縛られるようになるんです。DJ音楽に縛られている人は、"この曲はクラブでかけられないな"とか言ったりしますけど、それってDJで使いにくいと感じただけであって、ダメな曲ではないし。逆に言うと、DJで使える曲もカラオケで盛り上がる曲もある意味同じで、コンセプトが違うだけで使われる現場での機能性を重視している。僕はそういうところに縛られ過ぎないで作られた音楽の可能性もやっぱり信じたいし、純粋に聴いて楽しい音楽にしたいんです。

ー日本人はむしろルールに縛られるのが好きだったりしますよね。

中田 音楽に正解は無いので、大事なのは感覚に正直になれるかどうかですね。用途に縛られるというのはよくある話で、面白い曲でも実際にライブでやったらファン以外は全く反応できないものってありますよね。それはバンドのワンマン・ライブだったら成立するんですけど、クラブ・ミュージックの場合だったら初見でも誘導できる作りにしないといけない。どっちが新しいかというと、"初見で聴いたときには誰も盛り上がらない曲"なんですけど、そうじゃなくても、どこで何が起こるかの"どこ"だけをルールにして、ほかを自由にすればいい。何でもやっていいっていうのは、あまりそういう曲を聴いたことの無い人にとっては新鮮に聴こえるのかもしれないですけど、そういう曲ばかり聴いている人はもう飽きている可能性もある。だから、自分にとって"これはルールだな"と感じない程度のルールはみんな欲していると思う。和風の曲を作ったことのない人が和風のルールで作ったら楽しいだろうし、逆にいつも和風の曲を作っている人はもうやりたくないだろうし。要は、自分にとって"これは面白いな"っていう程度の新鮮味があるルールを取り入れながら曲を作る、ということを僕はやっています。ただし、それをやる場合に全部のルールを正解にしちゃうと楽しくないよっていう話です。

ールールを取り入れつつもバランスが必要だと。

中田 そうです。だから"新鮮なことをやる"っていう感覚と、"こういうジャンルの音はこれ"っていう感覚の両方が必要。1回できた音楽ジャンルの音が永久に変わらないかと言ったら、僕は移り変わっていくと思っているんです。本当の意味では、ジャンルが意味する音は変わっていっているんですけど、それだと曲が選べなくなるので、新しくしないっていう面もあるんですよね。同じジャンルでくくられた曲を買うと、同じふうになっているというのがジャンル本来の意味だと思うんですけど、それは曲を使う側の発想で、作る側はどうでもいいことなんですよね。"そのジャンルの音を作らなきゃいけない"という気持ちは僕には無いってことです。

ー世界的にそうした"バランスの取れた自由さ"で音楽を作るクリエイターも少しずつ増えている印象があります。

中田 そうなんです。ただ、同じルールでみんながパッと盛り上がらないと面白くないというのはあります。例えば、みんなのテンポがちょっとずつズレていたらそんなに盛り上がらない。128BPMの曲が多いのって、"本当は129BPMの方がいいな"という人でも128BPMにしているからだと思うんですよ(笑)。それを躊躇(ちゅうちょ)なく128BPMじゃなくて129BPMにするのはポップス的とも言えて、別にそれはそれでいいとも思う。

ー強いて言うなら、『Digital Native』はクラブ・ミュージックとポップス、どちらを意識して作ったのですか?

中田 難しいところなんですけど、クラブ・ミュージックとして成立することを目的として作ったわけではないです。僕自身、DJで使いやすいのは自分以外の曲なんです。クラブで機能しやすい曲。でも家で聴くなら、そういう曲よりもこのアルバムの方が良いと言える。絶対クラブで聴かなきゃいけない作品ではないですけど、クラブの大きい音量で聴いた方がいいという面もある。何とも言い切れないところですね。クラブ・ミュージックを今、誰が、どういうものだと思っているかも変わり続けているので。例えばアニソンのイベントにしか行かない人からしたら、アニソンがクラブ・ミュージックなわけで。

ー用途などのルールは除外して、ご自身が純粋に好きな曲/音をまとめたのが、このアルバムというわけですね。

中田 楽曲提供だったらあまり作らなかっただろうなっていう、自分の好きな音を集めたアルバムですね。漠然と"音楽好き"に聴いてほしいと思っています。高級オーディオじゃなくてスマホのイアフォンでもいいんですけど、要するにクラスに一人は居るような音楽好きが聴いてくれたらうれしいです。売れ筋ど真ん中の作品とは思っていないので(笑)。いつの時代も受け身の人が多いと思うんですけど、受け身じゃない人にとって楽しい音楽であることが重要なんです。曲がやっぱり主役なので。

(続きはサウンド&レコーディング・マガジン2018年4月号にて!)


サウンド&レコーディング・マガジン 2018年4月号

品種雑誌
仕様B5変形判 / 220ページ
発売日2018.2.24