リットーミュージック

DISC 1

3Glass Onion

グラス・オニオン

1968年9月11日、12日、13日、16日、10月10日、アビイ・ロード第2スタジオで録音

グラス・オニオンというのはイギリスの俗語で片眼鏡のことだった

 “Glass Onion” という言葉は完全にジョンの造語だと思っていたら、イギリスのあるサイトを見ていたら“Glass onion” is British slang for “monocle(イギリスの俗語で片眼鏡をグラス・オニオンという)” という文章を発見した。「モノクル(monocle)」とは「単眼鏡(片眼鏡とも呼ばれる)」のことである。鎖などが付いていて、19世紀のヨーロッパの上流階級で流行し、日本でも明治の頃やや流行した。宝石や美術品を鑑定したりするときに使うものだが、貴族階級が付けるものであり、イギリスなどでは富の象徴で、地位のある男性に使われることが多かった。紳士のシンボルとしてシルクハット・コートや片眼鏡は定番だった。『怪盗紳士ルパン』の表紙で、アルセーヌ・ルパンに片眼鏡がかけられたことにより、怪盗のイメージとしても定着している。

 つまり、ジョンはそんな眼鏡をかけて、自分たちの曲を分析し、勝手な解釈をする人たちをからかうために、詞の中に意味のありそうな言葉を並べ、分析させようとしたジョン一流のジョーク、という曲。

 詞の中には「ストロベリー・フィールズ」、「レディ・マドンナ」、「フール・オン・ザ・ヒル」、「フィキシング・ア・ホール」など曲名や歌詞に出てくる「Nothing is real」や「Walrus was Paul(ウォーラスはポールだった)」などの言葉をちりばめた。詞の中に出てくる「Cast Iron Shore(鋳物の海岸)」は造語風だが、リバプールに実在する地名。

 この詞を分析することは、まんまとジョンの罠にはまることになるので、サウンドだけの分析をしてみる。『アンソロジー3』に収録されている音源を聴いてみるとエンディングでガラスの割れる音やテレビの「It’s a goal」の叫び声などを入れていたが、ジョージ・マーティンのアイデアで、ストリングスを入れることにした。10月10日のレコーディングで全編に入るストリングスはビオラ、チェロを強調したアレンジで、マーティンが作り上げたビートルズ・サウンドのストリングスだ。

 「♪ The fool on the hill」の歌詞の部分に、曲のサウンドをイメージさせるリコーダーをオーバー・ダビングした。ポールと、クリス・トーマスのユニゾンの演奏だった。ジョージのギターはストラトキャスターでディストーションをかけ、高音域を使ったプレイ。

 サウンドの核になっているのはここでもポールのベースである。リッケンバッカー・ベースで硬めにセットしたヘヴィなサウンド。2 コーラス目の最後の「♪ Looking through a glass onion」の後でピアノが「♪ Am → FonA → D7onA → Am7」と盛り上がり、歌の直前でのグリスダウンという気持ちのいい演奏もポールが弾いている。

 この曲のタイトル「Glass Onion」は、もともとアップルでデビューしたバンド「アイビーズ」が再デビューするときに、ジョンが出したバンド名の候補だった。最終的にアイビーズは「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」の原題だった「Bad Finger Boogie」からとった「バッド・フィンガー」としてデビューした。

<使用楽器>
ジョン:ギブソンJ-160E
ポール:リッケンバッカー4001S、ピアノ、リコーダー
ジョージ:フェンダー・ストラトキャスター、タンバリン
リンゴ:ドラムス、タンバリン
クリス・トーマス:リコーダー
バイオリン:ヘンリー・デイティナー、エリック・ボウイ、ノーマン・レダーマン、ロナルド・トーマス
チェロ:エルドン・フォックス、レジナルド・キルビー
ビオラ:ジョン・アンダーウッド、キース・カミングス