リットーミュージック

DISC 1

12Piggies

ピッギーズ

1968年9月19日、アビイ・ロード第1および第2スタジオ/ 9月20日、10月10日、アビイ・ロード第2スタジオで録音

中産階級を揶揄したジョージの社会派ソング

 ジョージが60年代に、警官の蔑称として使われていた「Pig(ブタ)」という言葉を使って、中産階級を揶揄した曲を作った。ジョージはこの曲を、社会に対するメッセージだ、と言っている。辛辣な社会派ソング。中間部に入れる1行の「lacking」の韻を踏む言葉が浮かばずに悩んでいたとき、歌詞に悩む息子に、母親(ルイーズ・ハリスン)が思いついた、「~ whacking(たっぷりぶん殴ってやる必要がありそうだ)」という言い回しを使った。

 9月19日、ジョージ・マーティンの代役のプロデューサーだったクリス・トーマスは「ビートルズ全員で第2スタジオでレコーディングしていたんだ。第1スタジオで見つけたハープシコードを使ったらどうかという僕のアイデアに賛成して使おうとしたが、移動できないために、全員で第1スタジオに移動した。ジョージは、クリスが弾くといいと言った。それで、僕が弾いたんだけど、2人でハープシコードをいじっているときに後に〈サムシング〉となる曲を聴かせてくれたんだ」と言っている。

 ベーシック・トラックは、クリス・トーマスのハープシコード、ジョージのアコースティック・ギター、リンゴのタンバリン、ポールの豚の鳴き声を意識した単音を強調したベースを録音。翌20日、鼻をつまんで歌っているようなサビのサウンドを、ケン・タウンゼンドが、マイクのシグナルを加工し周波数の上下をカットし音域を狭くする方法で録音した。その間、ジョンはアビイ・ロード・スタジオのテープ・コレクションの豚の鳴き声を探して、テープ・ループを作っていたという。

 この曲のキーは「A♭」となっている。ジョージの声が多少かわいらしく聴こえているのでおそらくキー「G」で録音して回転操作で半音上げたマスター・テープを作ったのだと思われる。10月10日にジョージ・マーティンのアレンジでストリングスのレコーディングをした。同じ日にストリングスを録音した「グラス・オニオン」と同じ編成。

 最後のコーラスは歌劇の1部のような大げさな混成コーラスになっている。リズム・トラックを聴くと、たぶんクリス・トーマスのハープシコードだけが中心となったサウンドだと思うのだが、ジョージ・マーティンのストリングスや、サビの電話の声のように変化したジョージの声、そしてジョンの作った豚の鳴き声などで小品だが深みのある作品に仕上がっている。

 1971年、悲惨な事件が起きた。狂信的なカルト・ヒッピー集団を率いるチャールズ・マンソンが「ヘルター・スケルター」と「ピッギーズ」の歌詞を曲解し、白人の支配者階級に革命の警告を発した曲だと思い込み、映画監督のロマン・ポランスキーの妻で映画スターのシャロン・テート宅など3軒の邸宅が襲われ、8人が惨殺された。いずれの事件でも「ピッグ」、「ピッグス」、「ピッギー」という単語が犠牲者の血で書かれていた。

 ジョージは自分では比較的おとなしいと思っていた曲を、勝手に解釈され、怖ろしい事件が起きたことに「アメリカの警官や、カリフォルニアのうすよごれたヒッピーとは何の関係もない。チャールズ・マンソンのようなやつと関連づけられるなんて迷惑だった」と述懐している。

 リンゴは「動揺したよ。僕はロマン・ポランスキーもシャロン・テートも知っていた。あのときは辛かった。愛と平和とサイケデリックの真っ最中で、突然こんな凶悪事件が起きたんだ」と語っている。

<使用楽器>
ジョン:サウンド・エフェクトのみ
ポール:リッケンバッカー4001S
ジョージ:ギブソンJ-160E
リンゴ:タンバリン
クリス・トーマス:ハープシコード
バイオリン:ヘンリー・デイティナー、エリック・ボウイ、ノーマン・レダーマン、ロナルド・トーマス
チェロ:エルドン・フォックス、レジナルド・キルビー
ビオラ:ジョン・アンダーウッド、キース・カミングス