リットーミュージック

DISC 1

2Dear Prudence

ディア・プルーデンス

1968年8月28日、29日、30日、トライデント・スタジオで録音

スリー・フィンガー・ピッキングを正確に弾けるのはジョンだけだった

 前曲のジェット音のSE とクロスしてジョンの弾く規則正しいスリー・フィンガー・ピッキングがフェイド・インしてくる。トライデント・スタジオだったため、ADTが使えず、ジョンが2回歌ってオーバー・ダビングしたダブル・トラッキング・ボーカルである。

 ジョンはインドに同行したドノヴァンからスリー・フィンガー・ピッキングを教わり、根気よく練習して自分のものにした。そして早速この弾き方で、「ディア・プルーデンス」と「ジュリア」を作った。なおこのときにドノヴァンから、厚い塗装がないほうがギターの音が良くなると聞き、サイケデリックに塗装されたギブソンJ-160E やエピフォン・カジノの塗装を剥がした。

 ポールは「フォークのスリー・フィンガー・ピッキング・スタイルがちゃんとできたのは、ビートルズの中ではジョンだけだった。僕は自己流でやってたから」と言っている。ジョージはチェット・アトキンス奏法が好きだったためスリー・フィンガーには興味がなかった。

 イントロとアウトロで目立つアコースティック・ギターの高音で「♪ターン・タン」と聴こえるメロディの音の組み合わせは普通のチューニングで表記すると次のとおりである。

1弦-14フレット(F#)・2弦-12フレット(B)、(以下弦とフレットを省略)1-12(E)・2-10(A)、1-10(D)・2-10(A)、1-8(C)・2-8(G)、1-7(B)・2-8(G)、1-5(A)・2-5(E)、1-3(G)・2-5(E)、1-3(G)・2-5(E)、1-2(F#)・2-3(D)、1-2(F#)・2-3(D)

 これをオープンD チューニングで、ちょっと強引に、1弦を「F#」、2弦を「D」、3弦を「F#」、4弦「D」、5弦「A」はそのまま、6弦を「D」にすると、親指での5弦の「♪ A → C → B → B♭→ A」の繰り返しと1弦「F#」と2弦「D」のフレーズが弾きやすくなる。スリー・フィンガー・ピッキングが非常に楽になるので、おそらくこのチューニングで弾いているのではないかと思われる。

 ちょっと強く張るので、弦が切れても責任は負えませんので、悪しからず。ジョンはスリー・フィンガーのギターをオーバー・ダビングでダブル・トラッキングにしている。

 ジョージはディストーションのエレキでポイントだけ弾いているが、これもジョージ独特のいい味を出している。

 これもインドの影響だと思うのだが、「♪ see the sunny skies」の後のコーラスが4小節という長さを息継ぎなしに「♪ Ah ~」と歌い、その後で「♪ round, round ~」とお経のような独特な響きを聴かせている。ハーモニーの低音パートが、瞑想へ誘うドローン効果を出しているように感じられる。

 この詞はインドの瞑想ツアーに参加したミア・ファローの妹のプルーデンス・ファローが瞑想にのめり込み、他人より早く悟りを得ようとして、まったく瞑想小屋から出てこなかったことを題材にしている。ジョンがこの曲を作って、外から歌って聴かせることにした。

 ジョン「彼女は瞑想にのめり込み、完全な錯乱状態になっていた。ジョージと僕は彼女に信用されるだろうということで外に誘い出す役に選ばれた。3週間もこもりっきりで外に出ようとしなかったんだ」。

 ジョンの曲だが、この曲でもポールが大活躍している。ベースはこれぞポールという、アイデアのあるフレーズを弾いているのはもちろん、まだリンゴが帰ってきていないため、ポールがドラムスを叩いているのだが、後半でのプレイは、とてもリンゴの代わりに叩いたとは思えないほど、ドラマーとしての才能を見せているのだ。

 そして、後半の「♪ won’t you come out to play」での速いフレーズのピアノも弾き、ちょっと聴き取りにくいのだが「♪ Look around, round, round」、のバックでは単音の伸ばした音だけだが、フリューゲル・ホルンも吹いている。

<使用楽器>
ジョン:ギブソンJ-160E あるいはエピフォン・カジノ
ポール:ドラムス、リッケンバッカー4001S、ピアノ、フリューゲル・ホルン
ジョージ:フェンダー・ストラトキャスター、タンバリン
リンゴ:不参加
マル・エバンズ:ハンド・クラップ
ジャッキー・ロマックス:ハンド・クラップ
ジョン・マッカートニー(ポールのいとこ):ハンド・クラップ