リットーミュージック

DISC 2

1Birthday

バースデイ

1968年9月18日、アビイ・ロード第2スタジオで録音

珍しくビートルズの全員が同じテンションでレコーディング

 ポールが誕生日をテーマにして作ったストレートなロックン・ロール。

 「アイ・ウィル」のレコーディングの翌日、TV でロックン・ロールの最高傑作映画『The Girl Can’t Help It』(邦題:女はそれを我慢できない)が放映されるのを知ったビートルズは、普段より早く午後5時半頃にスタジオ入りして録音をスタート。

 一旦レコーディングを中断した。理由はテレビでオンエアされる映画を観るためだった。スタジオの近くのポールの家に全員で押しかけて、テレビのオンエアを観て、またスタジオに戻ってレコーディングすることにした。映画の主演はジェーン・マンスフィールド。音楽業界が舞台の映画でロックン・ロールのスターが沢山出演した。この映画ではビートルズにとってのヒーローだったジーン・ヴィンセント、エディ・コクラン、リトル・リチャードなどのステージ映像を観ることができる。ビデオやDVDなどない時代、ビートルズでさえもテレビで自分たちのヒーローの映像がテレビ放映されるチャンスは逃したくなかったのだ。

 ポールがスタジオ一番乗りで到着したときには、「バースデイ」のリフを弾いていた。他のメンバーが到着するまでの間に、曲のほとんどをスタジオで書き上げていた。午後8時半頃までにバッキング・トラックを録って、予定通りポールの家に行き午後9時5分から10時40分まで映画を観てスタジオに戻ってきた。

 このときは普段のいがみ合いもなく、メンバー全員がロックン・ロールが大好きだったこともあり、ハイ・テンションのままでスタジオ入りした。ビートルズの4人が揃いアイデアを出し合うとそのまま録音に入り、明け方5時にはモノのリミックスまで終了していた。

 リンゴの「♪タタント・ストタン」というタム(太鼓)のキッカケでイントロが始まる。3拍目、4拍目のたった2 拍でリンゴらしい味を出している抜群のフレーズだ。「♪ダダ・ダダ・ダダーダ・ダ」のリズミカルなフレーズは、ジョージとジョンの2本のギターとポールのベースによって厚みのあるハーモニーになっている。そこにリンゴのドラムが「♪ダツ・ダツ・ダツ・ダツ」と絡んでくる。ブルース・コード進行の珍しいほど典型的なロックン・ロールだ。ベースはこのフレーズをイントロの全小節で休みなく弾いているが、ギターはドラムとの掛け合いで1小節おきに繰り返されている。そのコンビネーション・プレイがまさにロックン・ロール。

 ジョージとジョンのギターを細かく見てみよう。

◎ ジョージが弾いているギター(高音)のフレーズは、ポールのベースと同じフレーズ(ベースの2オクターブ上)の音。
◎ ジョンが弾くギター(低音)は、ベースとジョージのギターの中間の音域で、「♪ダダ・ダダ・ダダーダ・ダ」の後半部(下線の部分)をハーモニーで弾く。

 ちなみに、ジョンはイントロの最後の、歌が入る直前のワン・フレーズでハーモニーを弾き忘れ、ジョージと同じフレーズになっている。それまでもそうだったが、ノリが良くてサウンドに影響がなければ問題なしということでOKにしたのだろう。

 「♪You say it’s your birthday」の歌はポールが上のメロディ・パートを歌い、ジョンが下のパートを歌っている。

 1コーラス目が終わったところで、リンゴにしては珍しく長い8小節というサイズのドラム・ソロを叩いているのだが、ドラム・ソロだというのに、ここでもリンゴらしいシンプルなリズムを刻むだけの8小節だ。しかしこのシンプルさが9、10小節目のコード「E」での一気の解放感に繋がっていく素晴らしいアレンジだ。

 そのコード「E」のまま、3回の「♪ Yes, we’re going to a party, party」はジョージも加わり、それぞれ1声、2声、3声とハーモニーが重なっていき盛り上がってゆく。キーが「A」から「C」に転調したところで、音階を繰り返すようなフレーズを弾き、ポールとジョンが「♪I would like you to dance」と歌うときに、コール&レスポンスで「♪ Birthday」と女性コーラスが入る。このコーラスにはオノ・ヨーコ、パティ・ハリスンに、ポールが6日後の誕生日にこの曲を捧げようと思っていたリンダ・イーストマンも参加しているということだ。

 4回目のフレーズの2小節目から「♪ C → C → E → E → F → F → F# → F# → G → G → G# → G# → A → A → A# → A# → B」と半音ずつ上がっていき、盛り上がりが頂点に達するという構成になっている。そして間奏で、イントロと同じギターのフレーズに掛け合いで聴こえるピアノの音は、例によってピアノの音らしくない音を出そうと、ギター・アンプに通してトレモロをかけたという音だ。シンプルなロックン・ロールの中でもこれだけ様々な要素が効果的に使われている。これがビートルズだ。

<使用楽器>
ジョン:エピフォン・カジノ
ポール:リッケンバッカー4001S、フェンダー・ローズ・エレクトリック・ピアノ
ジョージ:ギブソン・レス・ポール、タンバリン
リンゴ:ドラムス
パティ・ハリスン:コーラス
オノ・ヨーコ:コーラス
リンダ・イーストマン:コーラス
マル・エバンズ:ハンド・クラップ