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ミュージシャンが自分の身を守るために
音楽著作権の知識はとても重要

安藤和宏

(株)セプティマ・レイ代表取締役/博士(法学)

知的財産法、音楽ビジネス論を専門とする安藤和宏氏。その著書『よくわかる音楽著作権ビジネス』はミュージシャンたちのために書かれ、1990年代から今日にいたるまで内容を改訂しながらロングセラーを続けている。

※このインタビューは2012年12月に行われました。

知識がある人とない人との間の交渉では、圧倒的に知識がある人が有利になる

●ミュージシャンを志す人はたいていの場合、音楽著作権についての知識は最初はほとんどないと思います。そうした人たちが、音楽著作権について知ろうと思ったとき、まず起こすべき行動は何でしょうか?

○まずは私の本を読んでください(笑)。それでたいていのことは分かります。ただ、最近は権利者団体の中には、ウェブサイトで音楽著作権について分かりやすく説明しているところがあります。JASRAC、日本レコード協会、日本音楽出版社協会、CPRA等のウェブサイトはよくできているし、無料ですので、アクセスする価値はあります。

●ミュージシャン自身が音楽著作権の知識を身につけることによって生まれるメリットと、知らないことによるデメリットを、初心者向きにいくつか挙げていただけますか。

○まず、契約で騙されにくくなります。これは音楽著作権に限らず、知識がある人とない人との間の交渉では、圧倒的に知識がある人が有利になります。たとえば、アーティスト印税や演奏料の相場を知らなければ、「アーティスト印税は0.1%、演奏料は1時間1,000円です」と言われたら「そうですか・・・、分かりました」となるでしょう。また、音楽著作権の知識は収入に直接関係してきます。 たとえば、プロダクションに所属していないフリーのミュージシャンでもMPN (一般社団法人演奏家権利処理合同機構)といった実演家団体に加入すれば、 CDのレンタル使用料や放送二次使用料がもらえるという情報はとても貴重です。ミュージシャンが自分の身を守るために音楽著作権の知識はとても重要です。

気をつけなくてはいけないのは、他人の音源や音楽を利用する場合

●ネットの発展により、誰でも音源や演奏動画をネットで容易に公開できるようになりました。これに伴い、公開する本人が知らないうちに誰かの権利を侵害してしまうことも増えたと思います。アマチュア・ミュージシャンが音源や動画を公開するとき、特に注意すべき点はどこでしょう?

○オリジナルを公開する場合はほとんど問題になりません。気をつけなくてはいけないのは、他人の音源や音楽を利用する場合です。最近ではJASRACがYouTubeやニコニコ動画と包括契約を締結しているので、JASRACの管理楽曲を演奏した映像をこれらのサイトにアップすることは適法行為となりましたが、それでも替え歌やメロディーの改変等は、作詞者や作曲者から直接許諾を得なくてはなりません。また、サンプリングのように他人の音源を利用する場合は、音源の権利者(通常はレコード会社)の許諾が必要になりますので、気をつけましょう。

●逆に、自分の権利を守るために、注意すべき点は何でしょうか?

○まず、自分の作品が盗作されたと思ったら、学者や弁護士等の専門家に相談することです。「ぱくられた!」と思っても、意外にコード進行が同じだけだったり、ありふれたフレーズだったりすることが少なくありません。まずは相手の曲を譜面に起こしてみてください。ここでキーを同じにして採譜することをお勧めします。そして、両者を比較してみてください。その上で一致率が高ければ盗作の可能性があります。ただし、相手が自分の作品を知らないで、偶然に似てしまった場合には盗作になりませんので、注意が必要です。

●インターネットの登場以来、安藤さんの元に寄せられるネット関連の相談は急増したのではないかと思います。特に相談の多い事例や、多くの人が勘違いしている事例などがありましたら、教えていただけますか?

○「インターネット音楽著作権Q&A」(http://port.rittor-music.co.jp/sound/column/copyqa/)に書きましたので、ご覧ください。

素晴らしい作品を創り続けることが「稼ぐ」ことの近道

●今回の企画の共通テーマは、「今、音楽で稼ぐ方法」なのですが、安藤さんの専門分野(知的財産法/音楽ビジネス論)から見て、今音楽で稼ぐためのヒントは、どの辺にあると思われますか?

○う~ん、音楽で稼ぐのは難しいです。そもそも芸術を志す人は「稼ぐ」という感覚を持たない方がいいと思います。素晴らしい作品を創り続けることが「稼ぐ」ことの近道です。金儲けに長けたって、愚作を作り続けても面白くないでしょう。

●著書『よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編』の4th Edition(2011年3月発行)に追加された項目のひとつに、「360度契約は成功するか」がありますね。 またその本文に“次回の改訂版を出版する頃にはその(360度契約の)勝敗が決していることだろう。”と書かれています。360度契約について、現時点での安藤さんの見解をお話しいただけますか。

○残念ながらレコード会社が手がけている360度契約は失敗していると思います。レコード会社がマネージメント部門を確立し、ビジネスとして成立させるためにはかなりの労力と時間がかかります。音楽ビジネスの分業化は時代の要請であり、それに抗うのは相当な覚悟が要ります。

「アーティストが音楽業界の中心であるべき」という信念は揺るがない

●『よくわかる音楽著作権ビジネス』は、1995年にその最初の版が発売され、 1998年(基礎編と実践編の2冊に)、2002年(2nd Edition)、2005年(3rd Edition)、2011年(4th Editon)と、リニューアルを重ねながら出版され続けています。 1996年には『よくわかるマルチメディア著作権ビジネス』、2003年には『インターネット音楽著作権Q&A』も出版されました。安藤さんの著書が、これほどまで長く読者に支持され続けている理由は何だと思いますか?

○漫画ですかね~(笑)。もともと1993年にサウンド&レコーディング・マガジンで連載を開始した時に、当時の編集長の濱崎さんに言われたのは、「ミュージシャンに分かるように書いてください」ということでした。法律の知識がまったくない人でも、一読すれば分かるように記述するという方針は、今でもまったく変わっていません。また、私は下町育ちで口が悪く、権力が大嫌いの性分なので、それが文章ににじみ出ていると思います。その辺が好きな人も意外に多いかも知れません。

●安藤さんは大学時代、真剣にアレンジャーを目指してピアノを学んだそうですね。その頃の夢と今のお仕事は、安藤さんの中でどうつながっているのでしょうか。たとえば、安藤さんの「アーティストが音楽業界の中心であるべき」という信念は、その頃から培われていたものなのでしょうか?

○私はこの企画でも登場する宮脇俊郎と大学のサークルが同じなんですよ。私が1年先輩ですけど。そして、我々の後輩にリットーの出版部にいる三上裕介がいます。みんな、勉強せずに練習ばかりしてました。私は山下達郎のコピーバンドのギターとボーカルでしたが、演奏よりもアレンジに興味があって、20歳から7年間、ピアノを習いました。もともと小学生の頃から作曲家になりたくて、小学校4年から6年で200曲くらい書きました。大学時代はポータワンを使って、寝食を忘れて打ち込みもしてました。これが私の原点ですね。「アーティストが音楽業界の中心であるべき」という信念は揺るがないし、年々、強固なものになっているような気がします。裏方に回ってアーティストのサポートをしていますが、アーティストが活躍する姿を見ると涙が出るほどうれしいです。もちろん、いつか前に出てやろうと虎視眈々と狙ってますよ(笑)。

●どうもありがとうございました。

このインタビューの内容に興味を持った方は、安藤和宏氏のノウハウが満載された書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 4th Edition』および『よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 4th Edition』もぜひご覧ください。

よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 4th Edition

よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 4th Edition

  • 著者:安藤和宏
  • 仕様:A5判/384ページ
  • 発売日:2011.3.10

よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 4th Edition

よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 4th Edition

  • 著者:安藤和宏
  • 仕様:A5判/416ページ
  • 発売日:2011.3.10

安藤和宏

安藤和宏 プロフィール

1963年生まれ、東京都葛飾区出身。東京学芸大学卒業、フランクリンピアーズ・ローセンター(LL.M)、ワシントン大学ロースクール(LL.M)修了、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程博士研究指導終了。高校教諭、音楽出版社の日音、キティミュージック、ポリグラムミュージックジャパン、セプティマ・レイ、北海道大学大学院法学研究科特任教授を経て、2011年4月からセプティマ・レイに復帰。専門は知的財産法、音楽ビジネス論。著書に『よくわかる音楽著作権ビジネス基礎編4th Edition』『よくわかる音楽著作権ビジネス実践編4th Edition』、『よくわかるマルチメディア著作権ビジネス(増補改訂版)』、『インターネット音楽著作権Q&A』、『夢の印税生活』(共に小社刊)、『情報は誰のものか?』(分担執筆、青弓社)、『アメリカ著作権法とその実務』(共訳、雄松堂出版刊)等がある。

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